古くから地震が多い日本では、地震に予知に関する研究も盛んだった。日本地震予知学会会長で、東海大学海洋研究所客員教授の長尾年恭氏によれば、地震予知研究には「この20年で大きな進展があった」という。そのひとつが「アスペリティ」という概念だ。
「海洋プレートと大陸プレートが強く固着した部分をアスペリティと呼び、そこが剥がれることで大地震が発生するとしたモデルです。海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むとき、この固着域に歪みが溜まり、一気に剥がれることで大陸プレートが跳ね上がって地震が起こる──というモデルで、プレート境界での地震を統一的に理解することが可能になりました」
プレートの固着域に関する詳細な研究が進められ、大地震発生のメカニズムの解明に近づいたのだ。
「さらにアスペリティの動きをモデル化して数式で表わし、今後の地震発生をシミュレートすることも可能になった。直近20年間における最大の進歩です」(長尾氏)
アスペリティの破壊が、同じ場所で繰り返し起こることも分かってきた。
2003年に発生した十勝沖地震(M8.0)の震源が、1952年の十勝沖地震(M8.2)とほぼ一致していると判明したのだ。
「1952年の地震と2003年の地震は、プレート境界のほぼ同じ部分が破壊され、マグニチュードもほぼ同じだったため、同じアスペリティと考えられました。2003年の地震で、今後しばらくは同じ震源域での地震の心配もなくなりました」(長尾氏)
ここで、同一のアスペリティが繰り返し地震を発生させるなら、そのアスペリティを監視すれば地震予知の実現に近づくのでは──との疑問も浮かぶ。
「ところが、ひとつの固着域が破壊されるケースもあれば、複数のアスペリティが破壊されたと考えられるケースもあり、その複雑性から簡単には予知できないのです。アスペリティ・モデルで大地震のメカニズムへの理解は深まったが、まだこのモデルで説明できない現象も残されているということです」(長尾氏)