「世間の風には1年半ほど触れてない」と語る佐藤さん
「だって、書けないんですもの。この前に、『九十歳。何がめでたい』を連載していたときと比べると、衰えたなあと自分で思いましたね」
「アベノマスク」をかたくなにつけ続けた安倍首相(当時)の姿を、責めるのではなく「哀愁漂う孤独な顎」と評したり(「小さなマスク」)、「女性が多いと会議の進行に時間がかかる」と発言した森元首相を大批判する世論へ敢然と疑問を投げかけたり(「釈然としない話」)。さすがは佐藤さん、と感じ入る切れ味だったのに。
「安倍さんの顎のことは、ひょっと思い浮かんだし、森さんのことも、テレビで見たとたんに、ああ、これは書こうと思いました。そういうときはいいんですけど、ひょっと出てくることがだんだん少なくなって。考えてひねり出すようになると、文章から自然の勢いというものがなくなるんですよ。
川が流れるように、自然にサラサラ流れていく文章がいい文章だと私は思います。消したり書いたり、いじくりながら書いた文章には、手垢がいっぱいつきます。人さまのものはともかく、自分のものはよくわかるんです」
読者にわからなくても自分にはわかる、と言う作家の言葉は重い。
エッセイでは、独自の着眼に意表をつかれることが多かった。
「自分で、人と違う意見を持つことが多いなあとは思いますが、別に変わった意見を言おうとしているわけじゃないんです。そう思ったから書いているだけ。
『女性セブン』だから、それほどうるさ型は読んでないだろう、とも思うしね。たとえば『週刊朝日』なんかだったら、うるさい読者から手紙が来て不愉快になるのでやめておこうと思ったかもしれません。
自由に書く、というのはなかなか難しいことで、これでも無意識のうちに、新聞、週刊誌、婦人誌、いろんな読者層というのが、頭の隅(すみ)にありますからね」
◆『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』
『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーになった結果、ヘトヘトの果てになり、ついに昏倒した顛末や、前作でも人気を博した佐藤さんの「勝手に人生相談」、北海道に別荘を建てた裏側にあった仰天エピソード、幼い頃の記憶から断筆宣言まで、佐藤さんが2019年2月~2021年5月まで女性セブンで気まぐれに連載した、ゲラゲラ笑えて深い余韻の残るエッセイを21編収録。
取材・構成/佐久間文子 撮影/江森康之
※女性セブン2021年8月19・26日号