ライフ

最期まで自宅で過ごす──コロナ禍の在宅医療 最前線の医師に密着

在宅医療に取り組む宮本医師は「笑顔」が大切だと説く

在宅医療に取り組む宮本医師は「笑顔」が大切だと説く

 新型コロナの感染拡大による「医療体制の逼迫」が叫ばれている。感染者、重症者への治療に医療のリソースが割かれることにより、コロナ以外の重病を抱えた患者へのケアが行き届かないことも懸念されている。通院や入院が難しくなるなか、「在宅医療」の現場で奔走する医師、医療関係者がいる。

 ムック『週刊ポストGOLD 理想の最期』(8月23日発売)にも在宅医療の現場ルポを寄稿したジャーナリスト・岩澤倫彦氏がレポートする。

 * * *
 新型コロナウイルスの第5波の勢いが止まらない。感染力の強い「デルタ株」に置き換わって、首都圏では容態が急変しても入院できないケースが頻発。政府は「中等症まで基本的に自宅療養」とする、苦し紛れの方針を打ち出した(その後、重症化リスクのある人は原則入院に修正)。そこでいま、注目されているのが在宅医療。がんや重い慢性疾患などを抱えた患者が、自宅で過ごすのを、医師、看護師、ヘルパーなどがチームとなってサポートするものだ。

 ただし、在宅医療には誤解も多いうえに、在宅医療が向く患者と向かない患者もいることは知られていない。コロナ禍の今、在宅医療の現場はどうなっているのか? 神奈川・川崎市の「在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき」の院長を務める宮本謙一医師に密着取材した。

独居で高齢でも在宅医療は可能

「こんにちは、お邪魔します!」

 玄関で大きな声をかけると、トートバッグを肩にかけた宮本医師は奥の居間へと進んでいく。そこには上品な顔立ちをした女性が待っていた。大きな窓のそばに置かれた介護用ベッドは、上半身を起こした状態になっている。

 女性は少し驚いたような表情で宮本医師を見つめていたが、やがてその顔には笑顔が広がり、楽しそうに会話を始めた。東京オリンピックのこと、コロナ禍で停滞する経済のこと、さらには若い頃の勤務先で、東京都知事の小池百合子氏と机を並べていた思い出まで。

「あの人は、私の机の上によく荷物を勝手においていたのよ。有名になる前のことだけど」

 女性の年齢は95歳。力のある声で、半世紀以上前のことを細部に至り、まるで昨日のことのように話す。言葉に知的なセンスが漂い、若い頃はキャリアウーマンとして活躍していた様子が浮かんだ。

 しかし、女性には認知症があり、日によって大きな波があるという。

 宮本医師は笑顔で女性の話に耳を傾け、しばらく様子を観察してから声をかけた。

「ところで、どこか具合が悪いところはありますか?」

 すると、女性は手の痺れを訴えた。宮本医師はその手を握ると笑顔で声をかける。

「力がありますね、いいですよー」

手を握り返す力を確かめることも

手を握り返す力を確かめることも

 老化による痺れは、薬である程度緩和できるものの、完全に治せるわけではないという。それを受け入れるしかない場合もあるのだ。

 女性は夫と死別した後、この家で独居生活をしていたが、数年前から体調を崩して、自力で歩行できなくなり、ほぼ1日ベッドでの寝たきり生活になっているという。そうなると、療養型の病院や施設に入る選択肢もあるが、女性は住み慣れた自宅で過ごすことを選んだ。

 宮本医師は聴診器をあて、血圧などを測定して体調が順調であることを確認する。そしてもう一度、女性と握手を交わすと、自宅を後にした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
どんな演技も積極的にこなす吉高由里子
吉高由里子、魅惑的なシーンが多い『光る君へ』も気合十分 クランクアップ後に結婚か、その後“長いお休み”へ
女性セブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
わいせつな行為をしたとして罪に問われた牛見豊被告
《恐怖の第二診察室》心の病を抱える女性の局部に繰り返し異物を挿入、弄び続けたわいせつ精神科医のトンデモ言い分 【横浜地裁で初公判】
NEWSポストセブン
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
『教場』では木村拓哉から演技指導を受けた堀田真由
【日曜劇場に出演中】堀田真由、『教場』では木村拓哉から細かい演技指導を受ける 珍しい光景にスタッフは驚き
週刊ポスト
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン