「足首が細くなってきた!」
効果はすぐに現れ、Aさんは喜びで声を弾ませた。その後もマッサージを続け、浮腫は改善した。すると、苦しさに埋もれていた前向きな気持ちが現れてきた。
Aさんは、病棟にピアノがあることに気がつくと、その日から夢中になって練習をはじめた。命の期限が迫るなか、昨日よりも今日、今日よりも明日、上達するために。
そして、外国から戻った娘さんの前で、演奏を聞かせた。穏やかで微笑ましい時間は、母娘にとって大切な時間になったと思う。しばらくしてAさんは亡くなったが、命の輝きはしっかりと娘さんに伝わったのではないか。
「老い」は、長寿の残念なオマケではない。色濃く命を燃やすことで、より鮮やかに命の本質を、次の世代に残すことができる。そんな生き方ができてこそ、ひらりとあの世に行けるのである。
【プロフィール】
鎌田實(かまた・みのる)/1948年東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後に長野県の諏訪中央病院に赴任。36年間、医師として地域医療に携わり、現在は諏訪中央病院名誉院長を務める。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2021年9月10日号