生存戦略長生きだけが勝ちじゃない
生き物の世界では、長く生きたものが「勝ち」というわけではない。生存戦略として、早死にを選んだ生き物もいる。短命でも子孫をたくさん残せれば、種の生存にとって有利に働くということだ。
たとえば、「はかない命」の代名詞、カゲロウの成虫は、数時間しか生きられない。子孫を残すという目的が何をおいても優先されており、餌を食べるための口は退化している。潔いような、切ないような命の終わりである。サケも川を遡上して子孫を残すが、ほとんどの場合、そこで命を終える。途中で人間やヒグマに食われるのは、さぞや無念だろう。
それに対して、人間は長生き戦略をとってきた。環境を整え、医療を発展させて寿命を延ばしてきている。厚生労働省が発表した最新の日本人の平均寿命は、コロナ禍でもあまり影響を受けず、女性87.74歳で世界一、男性81.64歳でスイスに次いで第2位となった。
長生きをすることで、ぼくたちは大きな恩恵を受けているが、同時に「老い」という課題も突き付けられている。「老い」の期間を、どんな価値あるものとしてとらえ直すか、超高齢社会を生きる者たちの宿題となっている。
衰えていくなかでピンピン生きることを目指す
ぼくはこれまで、「ピンピンひらり」という生き方を提唱してきた。生きている間は、行きたい所へ行くことができ、美味しいものを食べられるようにする。趣味やスポーツなどで楽しい時間も過ごせるだけの体力も備えていたい。それを実現するために、命がけで生きる。それによって命が縮んだとしても、本望だと思っている。
ぼくにそんな生き方を教えてくれたのは、緩和ケア病棟の患者さんたちだった。いちばん大切なことに立ち返り、丁寧に生きる姿は、特別な輝きを放っている。
Aさんもその一人だ。子宮体がんが全身に転移した彼女は、リンパ浮腫で足が象の足のように腫れていた。これを治すために、東京からリンパドレナージ治療の第一人者を招いて、施術してもらった。