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自立と恥じらいを体現し、30年続いたブルマ文化の功罪

──セクハラ概念の浸透や、ブルマの大量盗難事件などによによって、1990年代には、女子の体操着はブルマからハーフパンツやジャージに変わっていきます。ブルマは消えましたが、女性に「恥じらい」を求めるような価値観は、今なお過去のものになっていないと感じます。

山本:そうですね。家父長制において、女性の身体や健康は、子どもを産み育てるため、また、夫や家族を支えるための身体であり、健康であったわけです。つまり、女性が自分自身のために健康であるとか、美しくあるという発想は、長らく続いた家父長制の中の女子像にはなかったのです。「誰かのため」の身体だった。そうした価値観の延長線上に、女子のスポーツを見世物として捉えたり、性的な視線で見るまなざしがあると思います。今はなくなりましたが、昭和の時代には、「アイドル水泳大会」とかいって、女性アイドルが水着で騎馬戦を行うような番組が地上波で放送されていましたね。

時代の「徒花」のように咲いたブルマ文化を再考する

──今回の東京オリンピックで金メダルをとった女子ボクシング選手に対して、張本勲氏が「嫁入り前のお嬢ちゃんが顔を殴り合って」などと発言し、その後、謝罪しましたが、この発言などは、そうした古い価値観の延長線上にあると感じます。

山本:このオリンピックで明らかになったように、今なお価値観を変えられない人というのはいます。ただ、見られる側、つまり選手側が変わることはできますし、実際、変わりつつあります。今回、ドイツの体操選手がユニタードを着たように、選手たちの選択肢が増えていくといいですね。

──これまで声を挙げられなかった人たちが声を挙げるようになり、今、フェミニズム関連の本も、よく読まれています。2016年の出版時に話題になった山本先生の『ブルマーの謎』ですが、今読むと新たな発見もあり、日本社会が変わったことと変わっていないこと、その両方がよくわかります。

山本:敗戦後、日本社会は制度の面では大きく変わりましたが、女性観に関しては戦後の男女平等の理念の下で、戦前的な心情も脈々と受け継がれてきました。スポーツについても同じように、戦後のGHQ主導のスポーツ観の下で、戦前の国家主義的なスポーツ観が生き続けていた。この4つの流れが交錯したところに徒花のように咲いたのが、女子体操服としての密着型ブルマだったというのがこの本でのわたしの見立てですが、今、フェミニズムに関心のある方にもぜひ手にとっていただき、議論のきっかけの一つにしてもらえればうれしいです。

◆山本雄二(やまもと・ゆうじ)/
1953年愛知県生まれ。関西大学社会学部教授。専門は教育社会学

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