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自立と恥じらいを体現し、30年続いたブルマ文化の功罪

──しかし、導入直後から、当事者である女子生徒たちからは、ブルマへの不満や嫌悪感が聞かれたといいます。それがなぜ30年も続いたのか。当事者たちの声が無視されていたことに違和感を覚えます。

山本:これはブルマに限らず、たとえば組体操やうさぎ跳びにも言えることですが、学校ではいったん導入されて定着すると、その効用が疑問視されようが、何のために導入されたか、当初の目的が忘れ去られようが、そのまま継続される傾向があります。続けていくうちに精神論や道徳性を帯びるようになっていくからです。女子生徒が、恥ずかしいからおしりを隠そうと上着をブルマの上に出していると、「だらしない」、言いかえれば道徳心の乱れだと決めつけられるようなことが、多くの学校で起きていました。

 とはいえ、これまで見てきたようにブルマの導入は学校主導で強い意思を持って導入したものではないのです。それなのに、強い意思を感じるほど継続されてきたわけで、ほかに何か理由があったのではないかと考えていたときに、「シンガポール日本人学校のブルマ強制問題」に行き当たりました。

女性教師がブルマに見出した「美」と「日本人らしさ」

──1990年代初頭のシンガポール日本人学校で、日本から赴任してきた女性教師が、それまで自由だった女子の体操着を「ブルマ」に統一しようとし、生徒から反撥が起きた、という事件です。朝日新聞に報道されました。

山本:調べていくと、この先生は、「統一の美」が大事だかとか、「日本人らしさ」を失ってはいけないから、ということを主張しているんですが、「統一」だけを考えるなら、すでに支配的になりつつあったハーフパンツに統一してもよかったはずです。にもかかわらずブルマにこだわっているということは、ブルマに「美」や「日本人らしさ」を見出していると考えざるをえません。それがなにかといえば、ブルマ姿を性的な目で見られることで生じる「恥じらい」の美であり、その少女が恥じらう姿に「清純さ」を見ている人たちがいたのではないか。

 オリンピックを経て、女性の自立した身体美や健康美が肯定されるようになった一方で、戦前的な女性観、家父長制的な身体観は根強く残っていました。私は本で「婦徳派」という言葉を使いましたが、「婦徳派」たちの価値観は少女たちに「恥じらい」や「可憐さ」「清純さ」を要求した。ブルマは、自立と恥じらい、その両方を体現する体操着として、30年もの間、続いてきたと考えられるのです。

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