最後のエッセイが話題の佐藤愛子さん
辛酸さんは『九十八歳』について、
「教訓もあり脱力できる面白さもある。一話一話の完成度が高い、まるでいにしえの時代から伝わる海外の民話を読んでいるような感覚がありました」
と感想を述べた。
「ブルンブルン体操」の一編も、その1つ。ブルンブルン体操とは、昔、同い年の故・牧羊子さんと話をしていて話題にのぼった、牧さんが女学校時代に体験したというラジオ体操のこと。戦時中、牧さんたちは上半身裸でラジオ体操を行っていて、動くたびに乳房がブルンブルンと揺れていた、と。辛酸さんはいまから70年以上前のうら若き女性たちの過酷さに思いを馳せたと話す。
「半裸で若い女性が体操するってなかなか想像しづらいですよね。でも佐藤さんは、この体操が存在していたことを最近ある写真集で証拠を発見して、衝撃的でした。佐藤さんは時代の生き証人。現代人が知らない昔の風習や情景を教えてくださっています。
『九十八歳』は、朴訥としながらも率直な文章で、戦争時代から現代まで時代を自由に行き来して書かれている。現代の話では、読売新聞の連載『人生案内』の感想や安倍晋三元首相の布マスクの話まで、ご自宅にいる毎日で、こんなに面白いことが書けるものなのか!と、驚きます。《思うように書けない》と断筆宣言をされていますが、実にもったいないと思います」
「マグロの気持」という一編では、佐藤さんは日曜日も祭日もなく執筆を続けてきた長い人生を振り返った。40代の辛酸さんも同じく、コラムニストとして20代から毎日のように原稿を書き続けてきた身だが──。
「佐藤さんと自分を重ねるなんて恐縮ですが、私も、身内の葬儀や体調不良のとき以外は休まず、まさに“止まったら死ぬ”マグロのように書き続けてきました。80代、90代まで現役で仕事を続けられた先輩がたを見ていると、ずっと求められて仕事ができるのはすごく幸せなことだと思っています。健康に気を使いつつ、佐藤先輩のように90代まで仕事ができたら本望ですね」
87歳のTwitter派は「まだまだ現役!」
現役で活躍している“コンピューターおばあちゃん”こと、溝井喜久子さん(87歳)は『九十八歳』にどんな感想を持ったのだろう。「私はまだまだ元気です」とハリのある声で取材に応じてくれた。佐藤さんは原稿用紙に万年筆で綴るが、溝井さんはTwitterが主戦場。毎日、自身が調理した食事の写真を3食分アップしたり、政治や社会について憂いや怒りを投稿。9万人ものフォロワーを抱え、フォロワーとのコミュニケーションも活発に行っている。
「おかげさまでまだまだ書きたいことは山のようにあるんです。“断筆”は、もうちょっと先ですね」
と朗らかに笑う。