スイスで行われた北京五輪反対のパフォーマンス。習近平とトーマス・バッハIOC会長の「ガッチリ握手」は悪者感たっぷり(AFP=時事)
だが、カンターとその協力者たちも、そのへんは織り込み済みのはず。米国民の49%はボイコット賛成だから、十分に勝算のあるケンカだと計算しているのではないか。米主要紙のNBA担当記者はこう指摘する。
「NBAとしても中国の顔色ばかり伺っているわけにはいかない。いくらドル箱だといっても、NBA全体の売り上げからすれば中国市場は数パーセントにすぎない。米国民が北京五輪ボイコットを叫べば、対中強硬スタンスを取らざるを得ない。2年前の事件以降、NBA内部には中国市場がダメならアフリカやインドの市場開拓を考えるべきだという意見も出ている。NBAと中国の関係は打算で結ばれた愛情なき結婚だ。いつでも破綻する要因はある」
昨今の人種差別問題や性的マイノリティ問題を見てもわかるように、スポーツ選手は政治とは距離を置くべきという概念はもはや古い。むしろ鋭い政治意識と正義感を持ったアスリートが政治家より政治を動かす時代になってきた。カンターの宣戦布告で、再び北京五輪ボイコット論が勢いを増す可能性もある。
■高濱賛(在米ジャーナリスト)