日本電産が量産するEV向け電動モーター(写真は2019年4月より量産中のモデル/共同通信社)
日本電産の躍進は、これまでピラミッドのトップにあった大手自動車メーカーからすると“下克上”と映るかもしれない。EV開発に携わった経験のある白方雅人・東北大学未来科学技術共同研究センター特任教授がいう。
「モーターに合わせてクルマを設計、開発するとなれば、既存の自動車メーカーとしては面白くないでしょう。今まではエンジンを自社で開発し、それに合わせてクルマを設計していたわけですから、日本電産のモーターで車を設計、開発するとなれば、自動車メーカーが一種の“下請け”のような立場になるので、逆転したように感じるかもしれません」
しかし、新興EVメーカーが続々と登場するようになれば、既存の自動車メーカーも価格破壊の波に巻き込まれていく。コストダウンのために日本電産の駆動ユニットを購入せざるをえなくなるかもしれない。
トヨタにとって最大のライバル
永守会長は前述の世界経営者会議で、「自動車は今まで価格競争が起きておらず、むしろ価格が上がっていた」と述べている。長いデフレのなかにあっても、自動車だけは価格が下がらず、むしろ値上がりを続けてきた。
中国では約46万円で販売された「宏光ミニEV」が若者たちの間で飛ぶように売れている。この価格で日本の安全基準を満たすのは難しいとはいえ、価格が下がれば需要は喚起されるはずだ。永守会長はそこまで見越して、壮大な目標を掲げているように見える。前出の田中教授が語る。
「市場の評価や戦略性は時価総額から占うことができます。トヨタの時価総額は32兆円ですが、日産は2.4兆円でホンダは6.1兆円です。日本電産(7.4兆円)はいまや日産やホンダを上回り、自動車部品ではデンソー(6.3兆円)をも上回っている。それだけ、日本電産の戦略は評価されているということです」