デジ役のハビエル・バルデム(EPA=時事)
「アイ・ラブ・ルーシーで売り出し、そのさなかに共産主義者だと嫌疑をかけられたルシル。夫の不倫とアルコール依存に耐えかねて離婚しながらも、その後もパートナーとして作品を作り続け、プロダクション経営者として成功したルシル。その一代記を脚色し、エンターテインメントとして描いたものだ。キッドマンは別に実際のルシルでなくてもいいし、ご本人よりも綺麗でセクシーであってもいいんだ」
当時、米国に吹き荒れていたのは、反共のジョー・マッカーシー上院議員が先頭に立った「赤狩り旋風(マッカーシズム)」だった。政官界、学界だけでなくハリウッドにも赤狩りの手が伸び、その標的の一人となったのがルシルだったのだ。共産党員だった作家が1952年、連邦議会でルシルが共産党員として有権者登録していたと宣誓証言、ルシルは議会に召喚されて追及された。結局は、彼女が25歳の時、共産党シンパだった祖父が勝手に彼女を共産党員として有権者登録していたことが判明し、無罪放免された。
作品ではルシルが議会で厳しく詰問されるシーンも出てくる。夫デジは当時、「彼女が赤いのは髪の毛だけ。それ自体も違法なんですね」と冗談交じりに弁護していた。
トランプ大統領時代に、保守とリベラル、白人とマイノリティの分断が拡大したアメリカでは、今回の映画はいささか刺激的なメッセージになっているわけだ。台頭するマイノリティ・パワー。復権を叫ぶ白人至上主義者たち。今回の作品は、確かにコメディとして楽しんだだけのルーシーファンをがっかりさせるだろうが、70年前と現在のアメリカを俯瞰する深みのある伝記に仕上がっている。
■高濱賛(在米ジャーナリスト)