ドイツでは、もし子供たちがいたずらをしても、人に危害を加えたり、子供に危険が差し迫ったりしていない限り、親が上から「ダメ出し」することはないという(キューリング恵美子氏提供)
新型コロナ禍の影響が長期化する中で、大人だけでなく、子供たちのメンタルの不調が懸念されている。学校や家庭でのコミュニケーション不足、感染予防のためのマスク着用や屋外での行動制限、生活環境や家族関係の変化などによって、「生きづらさ」を感じる子供たちが増えているともいわれる。
その象徴的なニュースが、小学校・中学校・高校などの児童・生徒の自殺者数の増加だろう。コロナ禍に見舞われた昨年から今年にかけて、児童・生徒の自殺者数が過去最多を更新するなど、子供たちの心身への悪影響が懸念されている。
「生きづらさ」を感じる子供たちが増えている一方で、近年、メンタル強化の面で注目されているキーワードの一つが「自己肯定感」だ。実際、「自己肯定感」をテーマにした書籍や新聞・雑誌記事は、枚挙にいとまがない。
もともとは臨床心理学者の高垣忠一郎(たかがきちゅういちろう)・立命館大学名誉教授が、没個性化が進んでいた日本の子供たちの状況を説明する際の用語として使い始めたとされ、「自尊感情(自分には価値があると思える感覚)」や、「自己受容感(ありのままの自分を認める感覚)」などの感覚が充実していることが、自己肯定感の高さにつながるという。
それらの感覚を高めることで、いかに子供たちを前向きにさせ、「生きづらさ」を克服するか──。
「……するな」ではなく、「なぜそうしたの?」
そのヒントとして、教育制度の先進国とも言われるドイツにおける子育ての利点を挙げるのが、現地在住20年以上のキューリング恵美子氏だ。結婚を機にドイツへ移住し、異文化の中で2人の子育てを経験したキューリング氏によれば、ドイツ人の家庭における子育ては「自己肯定感」を高めることに直結しているという。
「ドイツでの子育てを見ていると、日本の躾(しつけ)ほど厳しくはないとよく感じました。
たとえば、公園で遊ばせていても、いちいちお母さんがそばでピッタリとくっついていることはあまりなく、子供同士で自由に遊ばせています。すべり台から落ちるとか、ひどいケガをしない限り、放ったらかしています。子供たちは、雨の日にわざと水溜まりに入って泥んこになったり、木登りをしたりと、かなりワイルドに遊んでいます。秋に、子供たちが、かき集めた木の葉の中に突進して思いきり葉っぱだらけになっても、お母さんたちは微笑んでいるだけです。
日本では『幼稚園で大騒ぎするのはやめなさい』『礼儀正しくしなさい』など、大人が子供に強いる教育が一般的です。でも、ドイツで子育てしてみると、そうした注意をすることがかえって、子供が自分で考え、自分で感じて、自分で選択して行動する機会を奪っているように思えてなりません」(キューリング氏、以下同)