組事務所にガサ入れする櫻井氏(2012年)
交番勤務の警察官がマル暴になるためには、まず刑事として独り立ちしなければならない。刑事とは、巡査部長や警部といった階級ではなく「職域」であり、捜査講習を受けて、刑事課に配属された警察官を指す。
「地域課(交番)の巡査が捜査講習を受けるには、上司や刑事部からの推薦が必要です。手っ取り早いのは、何度も手柄をあげて目立つことでした」
自転車泥棒からノビ師(家宅侵入の窃盗犯)まで次々に逮捕し、警視総監賞誉3級を受けた櫻井氏は、1983年に念願のマル暴刑事に。警察官になってから約5年半後、25歳のときだった。
「このとき、人生で初めてパンチパーマをあてました。いかついダブルのスーツ、クロコダイル革のセカンドバッグ、幅広ベルトも買って、見た目だけは一丁前(笑)」
櫻井氏は「結局、そういうファッションが好きなんでしょうね」と笑う。
「もちろんヤクザが好きってことじゃないですよ。どこまでいっても、彼らは敵です。でも、ガサ入れとか、取り調べで会う奴らの服や小物にピンときて『それ、いいね』となるときもあった。似たような物を買っていくと、だんだん外見がヤクザに近づいていく。私なんかは、そのタイプでした」
(第2回につづく)
【プロフィール】
櫻井裕一(さくらい・ゆういち)/1957年、東京都生まれ。元警視庁警視。1976年、警視庁入庁。新宿署組織犯罪対策課課長、警視庁組織犯罪対策第四課管理官などを歴任。2018年、退官時に「警視総監特別賞(短刀)」を受賞。2020年、「STeam Research & Consulting」を設立。現在、飲料メーカー「伊藤園」の渉外業務にも従事。新刊は『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)。
※週刊ポスト2021年12月10日号