ライフ

【新刊】川村元気氏、2年半ぶりの新作長編小説『神曲』など4冊

book

ヒット作を連発する異能の映画人が2年半かけて上梓した現代の煉獄

年末の足音が聞こえてくるこの時期。部屋でゆっくりと読みたいおすすめの新刊4冊を紹介する。

『神曲』
川村元気/新潮社/1705円
命がさえずる小鳥店を営む檀野夫妻は、通り魔無差別殺人で愛する息子を失う。夫の三知男は犯人の死刑判決を祝うような被害者の会に入り、妻の響子は娘の花音と共に得体の知れない宗教団体の合唱団で歌い始め、コミューンにも入る。夫、妻、娘と三者三様の視点で紡がれる絶望や葛藤、あがき。後半は急展開。守るべき人を守り抜く。これ以上の“信仰”はないと確信させられる。

book

介護、仕事、難病、終活。最後まで名字で呼び合った青砥と須藤の恋

『平場の月』
朝倉かすみ/光文社文庫/748円
青砥は通院中、中3でコクった須藤とばったり再会。青砥は離婚し地元で再就職、須藤も夫と死別して病院の売店で働いていた。読者は冒頭で須藤の死を早々と知らされる。それでも前のめりで読んでしまうのは、中年男女のつましい生活感や、相手を尊重して必要以上に踏み込まない距離感にリアルを感じてしまうから。大人の臆病が恋の純度を切なく高めることを初めて知る。

しっぽの形や模様の違いなど、細部に宿るソックリさん達の自己主張

しっぽの形や模様の違いなど、細部に宿るソックリさん達の自己主張

『そっくりなのにぜんぜんちがう 世界一まぎらわしい動物図鑑』
監修/今泉忠明/小学館/1320円
失明したボルヘスが“虎を見てみたかった”と言っていたのには胸をつかれた。氏の南米にジャガーはいてもトラはいない。今泉先生によれば動物のソックリさん達は生息地や暮らし方、主食や食べ方などで違いが分かるとか。カピバラとヌートリア(まぎらわしい度1)、タヌキとアライグマ(同2)、斑点にも違いがあるヒョウとジャガー(同3)など20組が登場。大人も楽しい。

book

「よかったら訪ねてみて下さい」ヴェネツィアの古書店に端を発した村の旅

『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』
内田洋子/文春文庫/935円
表紙の緑の山々の中に見える集落がダンテも立ち寄った人口32人(2018年時点)のモンテレッジォ村。パスタ(小麦粉)が贅沢品だったこの村の人々は昔から本の行商を生業としてきた。その歴史を紐解き、村人達に話を聞く取材は、やがて本と本屋の原点をさぐる旅に。本書で村は一躍日本人の訪問地に、著者は2020年外国人初の「金の籠賞」を受賞。いつか旅したい地がまた増えた。

文/温水ゆかり

※女性セブン2022年1月1日号

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン