菜穂子さんは杉に伝えたかったことがあったという
彼女の心の声に触れ、『世界の中で』の曲には《この広い世界で 私もあなたも 同じ人間は一人もいない だから勇気をもって 自信をもって 堂々と 生きてゆこう》という歌詞が綴られている。
「人間はどこまでいってもさみしいし、孤独なもの。幸せそうに見えた人が突然、自ら命を絶ってしまうなど、人知れず心の中には悩みや孤独を抱えている。それに近頃は、自分に自信のない人が多いんじゃないかな。皆さん、生き方に迷い、どこかに気を遣いながら生きているように感じます。だからこそ自分は自分なんだと勇気を持って生き抜くことが大切なんだと思います。“自分の人生を堂々と生きる”ことをみんなで共有してほしいという願いをぼくも詞に込めました」
菜穂子さんの詩は、彼女の作品の読者から「とても美しい言葉」「生きる意味を教わりました」と大きな感動を呼んでいるが、杉いわく、単にいのちと向き合う美しい詩だから歌にしたのではなく、むしろその逆だという。
「菜穂ちゃんは風景や草花に託していのちの詩を書き続けていますが、障がいがあろうとなかろうと、人間はそんなにきれいな詩ばかり書くのはおかしいだろうと、ぼくは思っていたんです。詩にはできない違った感情をきっと心に押し殺していて、その感情を障がいや病で“ろ過”することできれいな詩になって出てくるのだろう、と。心の奥底に宿した彼女の深い人間味が美しく“ろ過”されているのだと感じて、そこが生々しくてとてもいいなと惹かれたんです」
彼女の詩からは人間味を感じる──杉は曲を届けるため、昨年12月にはATSUSHIと共に菜穂子さんと対面したが、その時、まさに彼女の“素顔”を垣間見たと語る。
「会って2~3分で菜穂ちゃんが、誰にも言ったことのないことを今日は言いたいと伝えてきたんです。『取材を受けるといつも“天使のような人ですね”“美しい詩ですね”とそればかり言われるけれども、頭の中ではどうやって悪いことができるか考えています。自分はそんな人間なんです』って。そばにいたご両親は驚いていらしたけど、ああやっぱりそうだったんだねって思いました」
杉が「いつも良い子でいなくてもいいんだよ。悪いことを考えたって、それが人間なんだから。どんどん“悪いこと”をしたっていいよ」と伝えると、菜穂子さんは途端に表情を輝かせたという。
「おとうさん、おかあさんが悲しむと思ってずっと言えなかった。やっと心の内を告白できたことで肩の荷が下りましたと彼女は伝えてきたの。そんな言葉を使うんだなって。これからは自分の第二の人生が始まる。今までは飾られてきた人生だった――そう言っていました。菜穂ちゃんからこれからどんな詩が出てくるのか、楽しみにしています」
杉は、心にストレスを抱える大人にこの曲を聴いてほしいと語る。菜穂子さんと杉が紡いだいのちのメッセージが疲れた心を癒し、前を向いて歩む力を与えてくれることだろう。
対面時、杉は菜穂子さんの話にさらに感銘を受けた
菜穂子さんの詩を原詩とし、杉が作詞した
CDリリースに関して会見を開いた杉
菜穂子さんから杉への手紙の実物。「ことばはいつもわたしをうらぎる」とある
手紙からは菜穂子さんと杉の交流の深さがうかがえる