名美の不倫の顛末は、なかなか悲惨なものだ。職場に乗り込んできた上司の妻に、名美は「泥棒猫」「盛りのついた猫みたいにニャーニャー」と罵られる。上司にも捨てられ、仕事を失い、物語のラストで彼女はひとりぼっちで歩く。
唐田は、この作品のどこに魅了されたのか。前掲書にある唐田へのインタビューでは、こう語っている。
〈不倫相手との電話で、もう切れているのに電話に思いを吐露してたところは、かなりグッときました〉
物語の後半、不倫がバレた名美は上司に電話をかける。すぐに電話を切られてしまうが、その後も名美は「私だって考えてんのよ。このままいったってどうしようもないってことくらい、わかってんのよ。奥さんがいるんだもんね」と涙声で吐露し続けるのだ。
唐田は鑑賞した映画の感想をノートに綴っている。『ラブホテル』では、「生というものの生きづらさ。悲しさ。痛さ。痛快さ。偶然というものの必然。先にふたりが出会っていたら、どうなっていたか」とメモしていた。インタビューでは、「あの映画のタイミングについては考えましたね」とも語っている。前出『相米慎二という未来』から唐田のインタビューでのやりとりにはこうも記されている。
〈──タイミングの物語です。
唐田 タイミングがいいのか、悪いのか。
──どうなんですかね。バッドタイミングだったのかな。
唐田 経験で学ぶしかないんですよね。人生のタイミングって。たとえ悪いことも、いいように変えていくしかないんじゃないか。結果、いいものにできたら。ぼんやり、そんなことを思ったりしますね。本当に、人が人を変えてしまうんだなって。人との出会いは大事なんだなと〉
唐田がどの時期に『ラブホテル』を鑑賞したのかはわからないが、作品を見て胸に去来するものがあったはずだ。本格復帰前に、“表現すること”への意欲も伝わってくる。2022年は、「女優・唐田えりか」の本格復帰の年となる。