『鎌倉殿の13人』で、鎌倉幕府初代将軍・源頼朝を演じる(写真/NHK提供)
「俺のシーンはいらないよ」
大泉の稀有な才能は歌番組の司会やバラエティ番組への出演など多岐にわたり発揮されてきた。画面を通して伝わってくる人柄の良さや抜群のアドリブ力は、作品で演じる役にも還元されている。
俳優・大泉洋の魅力を「一言で言うのが最も難しい俳優」と評するのは前出の映画監督、永井だ。
「大泉さんは変化があるし、いろんな表情がある。本人もどれだけの引き出しがあるか自分で知りたい、という感覚なんでしょう。演じることが大好きでしょうがないんだと思います。かと思えば、映画のクライマックスの撮影で『彼女の演技は最高だから、俺のシーンはいらないよ』と言ったりもする。自分だけがよく映れば満足なのではなく、映画全体のことを考えてくれる人です」
大泉演じる冴えない漫画家アシスタントが、謎の感染症が蔓延する世界でヒーローになるまでを描いた映画『アイアムアヒーロー』の映画監督の佐藤信介(51)は、大泉を「生まれつきの役者」と見る。
「役に自分を馴染ませるため、メイクや衣装合わせで何度も何度も粘り強くトライされ、執念のようなものを感じました。
作品を観ている人が、スッと大泉さんの視点に立てるのも彼のなせる技。劇中の大泉さんの反応が、まさに観ている人の反応として気持ち良く受け入れられ、大泉さんの苦労が自分の苦労を省みているように笑えてしまう。そこに視聴者は惹き込まれるのでしょう」
NHK朝ドラ『まれ』(2015年)で共演したガッツ石松(72)は、そんな大泉を芸能界の名優たちと並べてこう評する。
「役者ってのは顔や形もあるけど、人間性もあるからね。僕は高倉健さんや菅原文太さん、田村正和さんとも共演したけど、彼らのような大御所であっても共通して言えるのは謙虚さであり、礼節をわきまえた人間性なんだ。『まれ』の頃の大泉さんは映画やバラエティに引っ張りだこで既に人気者でしたが、その立場に胡座をかくでもなく、愛想よく、明るく現場を盛り上げていました。
これはある程度まで行くんじゃないかと思っていましたが、まさか今ほど売れるとは。昔ご一緒した仲間として、彼の活躍は嬉しく思います。おー、やってるな、頑張れよ!OK牧場ってさ」
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で大泉が演じる源頼朝は、自らの権力を維持するために弟の義経を排除するなど、冷酷な一面があることが知られている。そんな“嫌われ役”を大泉洋はどう演じるのだろうか。
(了。前編を読む)
※週刊ポスト2022年1月28日号