15歳くらいの年齢ではちょっと若すぎる
──女子選手も4回転やトリプルアクセルを跳ぶ時代になり、北京五輪では若いロシア選手の活躍が予想されています。フィギュアスケートは歳を重ねて上手くなっていく面もあると思うのですが、女子選手の低年齢化に関してはどう思われますか。
佐藤:フィギュアスケートという競技おいて、テクニカルな技術の向上は、素晴らしいことだと思っています。一方で、滑る技術とか、演技をする技術・表現力といったものは、15歳くらいの年齢ではちょっと若すぎるような気もします。練習や経験を重ねることで、人を感動させられる演技、成熟したパフォーマンスができるようになると思いますから。そのためには競技者として引退しても、その後、長く継続して滑っていける環境が必要ですし、観客やファンは、成熟したスケーターの成熟したパフォーマンスを見ることで、フィギュアスケートの見方が変わっていくと思います。
── 一度引退した高橋大輔さんがアイスダンス選手として現役復帰したり、浅田真央さんが自身のアイスショー・サンクスツアーを立ち上げて全国を回ったり。10代の若い選手の活躍とともに、長く滑り続けるスケーターの存在がフィギュアスケートを豊かにすることを実感しています。
佐藤: 今、ロシアでは様々なアイスショーが開催されていて、アマチュアとしての現役を引退したスケーターたちのプロ活動の場が増えています。「スケート靴を履かない仕事」だけでなく、「スケート靴を履く仕事」が非常に盛ん。選手として頑張っているスケーターたちが行く場所があることが、ロシアのフィギュアスケート界をさらに盛り上げていくのではないかと興味を持って見ています。
アメリカでSOIを立ち上げたスコット・ハミルトンさんが言ってたことなのですが、アマチュアとプロの世界がうまく接続しているスポーツは、マーケティングバリューを長く失わない。アメリカで盛んなスポーツ、野球やバスケットボール、テニスやゴルフなどは、すべてそうですよね。今、日本やアメリカのフィギュアスケートは、アマチュアの世界は強いのですが、その後がつづいていないことが課題だと思っています。ただ、日本でもアイスショーの需要は増えていて、私自身も、美少女戦士セーラームーンを題材にした「プリズム・オン・アイス」の演出の予定が控えています。次世代のスケーターが憧れる場を増やしていけるよう、私もできることをやっていきたいと思っています。
【プロフィール】
佐藤有香/さとう・ゆか/1973年東京都生まれ。フィギュアスケート選手で種目は女子シングル。フィギュアスケートのコーチをしていた佐藤信夫、久美子夫妻の間に生まれ、趣味でスケートを始める。ジュニアの頃から実績を残し、1994年のリレハンメル・オリンピックでは5位入賞、同年の世界選手権では優勝し、伊藤みどり以来、日本人二人目の世界女王となった。その後、プロに転向し、プロフィギュア選手権等多くの大会で優勝。表現力に磨きをかけ、プロとしても評価されている。現在は日本国内外の選手のコーチや振付師として活躍中。
取材/砂田明子