にっこり微笑む(2014年岡山放送局時代の和久田アナ)
初鳴きするまでの和久田アナは、野球の知識はほぼゼロでルールもほとんど知らなかった。先輩アナからは「放送に出しても問題ないレベルになったら実況させる」と言われていたため、猛勉強した。
「本当に人一倍努力していましたよ。印象に残っているのは、初めての実況に向けて練習するために、何度も岡山や倉敷市内の球場に足を運ぶ姿です。試合は土日や祝日に組まれることが多かったのですが、仕事が休みの日には必ずと言っていいほど球場に来ていました。
当時、私も球場によく観戦に行っていて、和久田さんは私を見つけると『すみません。隣で実況の練習でしゃべってもかまいませんか?』と言って横に座り、バックネット裏の観客席で、実際に声を出しながら実況の練習を始める。勇気のいることだったと思います」(綾野氏)
無難にこなしていたと感じていた綾野氏だったが、慣れない実況中継に和久田アナは、一・二塁間を抜く当たりを「レフト前ヒット」と言ってしまうミスもあった。
だが、初鳴き後も球場を訪れて研鑽を重ねることで、翌年の実況では県民から「上手くなったね」と声をかけられるようになった。岡山県民の声援が彼女の力になった。
NHKのホームページで、その頃のことを和久田アナはこう振り返っている。
〈またある時は、出勤途中でおばあさんが「あんたNHKの子じゃろ、頑張ってるのをいつも見てるよ」と話しかけてくれました。最初の頃は、ニュース原稿を間違えずに音声化するだけで精一杯でしたが、それからは、この優しいおばあさんにも「伝わる放送」を心がけよう!「伝わるニュース」を読もう!と思うように。「誰に向けて伝えているのか」を意識することが、いい放送につながると今でも思っています〉
和久田アナは、岡山の地で県民を思い、努力を続けることで「伝える力」を養っていった。
(後編につづく)
※週刊ポスト2022年2月18・25日号