ウクライナへのロシア侵攻は日本の各紙の一面となった(AFP=時事)
「私たちは何も悪いことをしていません。ロシアがいつも奪う。ウクライナ人を奴隷と思ってます」
彼女が繰り返すロシアに対する絶対的な嫌悪と不信感。それはあたりまえで、ウクライナの歴史はロシアとの戦いの歴史であり、支配と暴力を受け続ける歴史でもあった。帝政ロシア時代は土地も言語も奪われ、旧ソ連時代は反抗的な態度をとれば全土から食料を取り上げられた。1932年ごろから繰り返されたこの「ホロドモール」と呼ばれる人為的な大飢饉によりウクライナ人の1000万人以上(諸説あり)が殺されたという。
「ジマは謝りましたが、あれは嘘だとみんな言ってました。いつも嘘つきます」
わからないので聞き返すと「ジマ」とはロシアの前大統領だった統一ロシア党首、ドミートリー・メドヴェージェフのことだという。ドミートリーという名前は、ジマという愛称で呼ばれるのが慣例だそうだ。国際的に認められている内容とは違っていても、謝罪したかどうかはウクライナ、まして彼女の主観なので置くが、ウクライナ人は率直で裏表を嫌うとされる。ケレン味のない国民性だ。いい意味でも悪い意味でもロシア人とは反りが合わないということか。
「ウクライナを救けて欲しいです。日本は凄い国なので救けて欲しいです」
久しぶりに「日本は凄い国」と言われてまんざらではないが、ウクライナ人にとって遠い日本は「凄い国」と知っているそうだ。学校や教える側にもよるのだろうが、彼女もまたそう教わったと語る。
「日本はロシアと戦争で勝ちました。ロシアに勝つのは凄い国です。フランス(ナポレオン1世のロシア遠征)もドイツ(ヒトラーのソ連侵攻)も負けました。日本は勝ったことあるから凄い国です」
常にロシアと対峙してきたウクライナ人にとって、超大国ロシアに戦争で勝つというのは信じられないことなのだろう。あれを勝ったと言えるか、という向きもあるが、世界でロシアに虐げられた国々の多くは、日本はロシアに勝ったとしているし、1904年から1905年という100年以上前の戦争の話なのにその日本を凄いと21世紀になっても讃えている。近代史において白人の大国と戦争をして有色人種が勝った、日本人が思う以上に多くの国は人類史に快挙として加えている。
「テンノー凄いです」
明治天皇のことだという。「トーゴー」(東郷平八郎元帥)や「ノギ」(乃木希典将軍)ではなく「テンノー」であった。こうした反応を実際に聞くと、ステレオタイプでない生の声というのは本当に興味深いと思う。なるほど素朴に帝政ロシアの「皇帝」と対比するなら大日本帝国は「テンノー」なのだろう。