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文学で伝えられる「破傷風」の恐ろしさ 誰でも感染リスクある怖さ

破傷風の恐ろしさは過去の文学作品からもわかる(イメージ)

破傷風の恐ろしさとは…(イメージ)

 2020年から続く新型コロナウイルスだけでなく、人類は感染症とともに生きていかねばならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、前号に続き災害時に心配される感染症の筆頭「破傷風」について解説する。

 * * *
 感染症対策の解説でお馴染みの岡田晴恵です。今週は「破傷風」の続きをお話ししましょう。

 破傷風の“風”という字は、しびれや麻痺を意味します。破傷風という漢字の傷を破って風(しびれや麻痺)を起こすという命名は、この病気の感染経路と症状を的確に表しています。

 破傷風は人から人へ感染する病ではありませんが、破傷風菌は土の中にひろく存在しますから、傷を受ければ感染する可能性があります。破傷風菌に接触しないで日常生活を送ることは不可能ですから、誰でも感染のリスクはあるのです。

 日本では破傷風トキソイドワクチンは1952年に任意接種で使用が始まり、1968年にジフテリア・百日咳・破傷風3種混合ワクチンで定期接種となりました。これにより破傷風の患者数と死者数が減っていきました。

 現在の日本では定期予防接種が普及しているため、小児から若年成人に破傷風患者はほとんどいませんが、定期接種導入以前の中高年齢以上の人は、ほとんど免疫を持っていません。平成18年の全国統計によれば患者の95%以上が30歳以上の人でした。

 破傷風を伝える文学があります。長塚節著『土』には、農家の主婦がその貧しさ故に第3子を自分で堕胎する場面で破傷風の感染が描かれています。ホオズキの根を洗って乾かし、それを子宮口に差し込んで卵膜に穴を開けた時に破傷風菌芽胞が侵入したのです。主婦は典型的な破傷風症状を出して死亡。その症状の記述は正確で、破傷風の怖さを私に知らしめました。昭和20年代まで、ホオズキの根での人工流産は民間療法でひろく行なわれていたのでした。

 三木卓著の『震える舌』も、5歳の女の子が些細なケガから破傷風に感染・発症する様子がリアルに描かれています。患者とその家族が精神的にも限界状況に追い詰められていく闘病がつづられ、この作品は野村芳太郎監督によって映画化もされています。忘れてはいけない感染症として破傷風の恐ろしさを実感できる作品です。

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