怒り冷めやらぬスミスと、おどけてごまかすロック(AFP=時事)
「ロックはこれまでもスミス夫妻になにかとからんでいた。女優でプロデューサーのジェイダを2016年のアカデミー授賞式でもからかっていたし、夫妻の結婚記念日にわざとスミスの前妻の話をするなど、かなりしつこかった。その背景にはスミスに対する根深い劣等感があるのだろう。スミスはMIT(マサチューセッツ工科大学)奨学生に選抜されるほどの秀才(入学はせず)だし、ジェイダもインテリ女優として高い評価を受けてきた。スミスはラップダンサーとして一世を風靡して映画界に進出し、今回を含めて主演男優賞に3回もノミネート(今回初めて受賞)されている黒人男優のトップスターだ。
一方のロックは高校ドロップアウト。下積みからお笑い芸人として芸能界の階段を昇ってきた叩き上げだ。黒人エンターテイナー界での階級差は明白で、やっかみと妬みを抱いていたことは間違いない。スミスからすればとばっちりで、ロックのねちっこい嫌がらせに堪忍袋の緒が切れたというところだろう」
さらに、こんな事情も。
満面の笑みだったスミス夫妻だが(PA Images/時事通信フォト)
「スミスとジェイダはもともと仕事上のパートナーで、結婚後もお互いの自由恋愛は許し合うオープン・マリッジ(開放結婚)を尊重するという特殊なカップルだ。夫婦関係について様々な憶測があるなか、傷ついているパートナーを無礼な輩から守る夫としての姿勢を示したかったのかもしれない」(同前)
授賞式翌日、賞を主催する芸術科学アカデミーはスミスを非難する声明を出し、この暴行事件は州法、州条例に基づいて裁かれると断じた。主演男優賞も剥奪される可能性が高まっている。どんな事情があるにせよ、あまりにも高くついた一発だった。
■高濱賛(在米ジャーナリスト)