例えばある一首に触れて、「そういえばこんなこともあった」と笑い話にするなど、過去を肯定するきっかけにも短歌はなりうる。
「自分にないものを数えるより、今持っているものがいかに素敵かに気づく方が幸せになれる気が私はするんです。いつかよくなるという成長の話より、今、何に夢中かという話を私はしたいし、役に立とうと立つまいと何かに夢中になってる状態そのものが、生きてるってことなのかなあと。
私自身、〈教室じゃ地味で静かな山本の水切り石がまだ止まらない〉のように、何かが光っている人やモノに惹かれがちで、日々そうした断片を拾って歩いている。だから些末な歌が多いんですけど(笑)」
そうした一瞬、一瞬を、もちろん心身に余裕がなく、大事にできない時期はある。が、「いつかまた大事にしたくなったら戻ればいいし、戻ってこそ発見も多い」と彼女は言い、それを短歌に留め、みんなのものとするのだ。
【プロフィール】
岡本真帆(おかもと・まほ)/1989年生まれ。3歳から高知県中村市(現・四万十市)に育ち、大学進学で上京。卒業後は広告会社のコピーライターとして働く傍ら、作歌を開始し、「うたらば」等に投稿。知る人ぞ知る存在に。現在は(株)コルクで所属クリエイターのPRを担当する傍ら、歌人として活動。未来短歌会出身。「傘の歌以来、『あの傘がいっぱいある人ね』と言われるのが癪で、今は意地の傘1本生活です。これしきの小雨じゃ濡れても買わないぞって(笑)」。170cm、O型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2022年4月22日号