人生100年時代──このフレーズが市民権を得るようになって久しいが、実際に100才を迎えた後も健康に生きている人はそれほど多くはない。国際長寿センターの試算によれば、100年以上生きることができる割合は女性であれば12人に1人、男性は50人に1人だという。また、厚生労働省の調査によると要介護認定を受け、いわゆる“寝たきり”の状態の高齢者の数は600万人以上に上る。
“人生100年時代を体現できているのはほんの一握りだけ”という現実が浮かび上がってくるが、最新の研究によれば近い将来、人類は誰しも最長120才まで健康な体で生きられる可能性があるという。淡海医療センター病院長で長寿遺伝子研究に詳しい古家大祐さんが解説する。
「カギを握るのは腎臓とDNAです。あらゆる臓器の中で最も老化が進みやすい腎臓が働いている限り生き続けられると仮定すれば、120才まで生きることも不可能ではありません。その際に、健康体でいられるかどうかを左右するのが、私たちのDNAに組み込まれた『サーチュイン遺伝子』です」
サーチュイン遺伝子は通称“長寿遺伝子”と呼ばれ、近年大きな注目を集めている。
「そもそも体が老化するのは細胞が活動するためのエネルギー源を作り出す『ミトコンドリア』が生活習慣病やがんなどの原因物質である活性酸素によって傷つけられ、働きが衰えてしまうことに原因があります。しかしサーチュイン遺伝子が活発に働けば活性酸素が取り除かれ、ふたたび元気なミトコンドリアが作られるようになります」(古家さん)
健康長寿の研究に詳しいイシハラクリニック院長の石原結實さんも声を揃える。
「この遺伝子を発見した米マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ギャランテ教授は、『サーチュイン遺伝子によって人間は誰しも130才まで生きられる可能性が生まれた』と発言しています。つまり、サーチュイン遺伝子をいかに活性化させるかが長寿研究の要なのです」
石原さんによれば、誰もがこの長寿遺伝子を持っているにもかかわらず病気になったり若くして亡くなったりする人が後を絶たないのは、ほとんどの人のサーチュイン遺伝子が休眠状態にあることが原因だという。
「そもそもサーチュイン遺伝子は生物が飢餓や低酸素など死の危険に直面した際、生命を維持するために発達した機能です。そのため、食糧がいつでも手に入り、住居によって暑さや寒さがしのげる現代社会においてはほとんど活性化する機会がないまま衰えていってしまう。
つまり強制的に遺伝子の機能がオンになるような状況を作り出す必要があります。低酸素状態は生命の危険を伴うため簡単にはできませんが、ある程度の飢餓状態であれば食事の内容や回数をコントロールすることによって作り出すことが可能です」(石原さん)