今回、目撃証言をカメラに収めた二村氏も、青木さんを取材する中で平野氏の存在を知った。青木さんや二村氏は、今回の証言を足掛かりに「東住吉事件」のように当時の火事の再現実験を行ないたいと考えている。青木さんと同じように再現実験を行えば、判決の矛盾が浮き彫りになり、再審への道を開くことができるかもしれないと考えているからだ。
再現実験のために「クラウドファンディング」を開始
しかし、再現実験には多額の費用がかかる。平野氏にその資金はない。そこで青木さんは二村氏のアイディアと力を借りて、広く資金援助を募るクラウドファンディングを始めた。再現実験や再審の準備費用として、4月末までに500万円を集めるのが目標だ。
青木さんはこう話す。
「平野さんは逮捕直後から一貫して放火も殺人もしていないと無実を訴えています。実際、犯行を直接裏付ける明白な証拠はありません。出火場所を巡り、検察の主張と平野さんの証言は真っ向から対立しています。どちらが正しいのか明らかにするためには、実際に火災が起きた状況を再現する必要があります。
平野さんは日常的に覚醒剤を使っていたほか、傷害事件で執行猶予中でした。でも、いくら悪いことをしていた人だからといって、殺人、放火したかは別の話です。覚醒剤使用や傷害事件の存在が、放火事件の裁判で事実を見誤らせるきっかけになった可能性はないでしょうか? 事件当日、いったい何が起きたのか? 平野さんは本当に放火したのか? ぜひこの事件の真実を明らかにするため、応援していただけると幸いです」
火事の再現実験を目指すクラウドファンディングは4月いっぱいまで実施されているという。目標額を達成した場合だけ、集まった支援金を受け取ることができるシステムで、まだ目標額には達していない。この事件の本当の真相に迫ることはできるのだろうか――。
◆取材・文/相澤冬樹(ジャーナリスト)