駅付近まで到達「名古屋」浸水MAP
避難は「2階より3階、4階」
南海トラフ巨大地震の津波は名古屋にも及ぶ。愛知県防災会議地震部会が作成した被害予測調査結果によれば、家族連れに人気のテーマパーク、レゴランド・ジャパンや名古屋港水族館が位置する港区や、その先の中川区、さらには名古屋駅がある中村区の一部にまで浸水する可能性がある(別掲図を参照)。名古屋大学減災連携研究センター教授の富田孝史氏が指摘する。
「南海トラフで発生する津波は約30分かけて伊勢湾の入り口に達し、そこから約70分かけて名古屋港に到達すると予測されています。1959年に伊勢湾台風による高潮災害を経験した名古屋の臨海部は、防潮堤なども整備されていますが、木曽川、揖斐川、長良川の木曽三川の周辺は海抜が低いため、津波が海岸や河川の堤防を乗り越えると、広範囲が浸水されてしまう」
冒頭で川崎市の避難訓練に触れた神奈川県。内閣府の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループは、川崎市で最大3mのほか、鎌倉市、逗子市では8m、藤沢市や葉山町では5m、横浜市でも3mの津波を想定している(別掲図を参照)。津波が横浜市を越えれば、その先にある東京湾の被害も懸念される。
首都圏津波高MAP
「最大1.88~2.48mの津波が想定されていますが、東京湾の奥部には高潮対策の防潮堤があるため、被害は最小限に食い止められると予測されています。いたずらに心配しすぎず、居住地域の津波ハザードマップを確認していざという時のために準備することが大切です」(前出・富田氏)
巨大津波に備える上で大切なのは、まず正しい避難方法を知ることだ。前出・河田氏が指摘する。
「避難の鉄則は『水平避難』ではなく『垂直避難』です。大阪市では高さ10m以上で鉄筋コンクリートのビルを『津波避難ビル』に指定し、緊急時はそこに市民が避難するように指導しています。『2階なら安心』ではなく、より高く3階、4階へと避難してほしい」
巨大地震が発生してから津波が到達するまではタイムラグがある。「津波はここまで来ないだろう」と油断せずに垂直避難を心がけたい。前出の富士通・大石氏は、今後も「AI津波予測」の実用化に向けた努力を続けていくという。
「まだ課題は残っていますが、今後も市民との実証実験等を重ねて精度を高め、住民の避難に役立てられるよう開発を進めたいです」
テクノロジーが避難を支えるまでは、各自が適切な知識を持つことが最大の防災となる。
※週刊ポスト2022年5月6・13日号