2022年1月に千葉市で行われたドローンによる物流の実用試験。どんな形で配達しても受け取り側の協力は必要だ(時事通信フォト)

2022年1月に千葉市で行われたドローンによる物流の実用試験。どんな形で配達しても受け取り側の協力は必要だ(時事通信フォト)

 それにしても時間指定で置き配なし、それでいて不在、あとで連絡を受けて再配達してもまた不在、それを繰り返す客というのはいったい何がしたいのか。

「滅多にないと言いたいのですが、よくいらっしゃいます。ご事情おありなのでしょうが、繰り返されると辛いですね。不在票は配達員の手が唯一加わる部分なのですが、あまりにも繰り返される場合、一筆お願いを書くこともあります」

 至れり尽くせり、かつて、日本の宅配事業は質の高さとその安全性から世界に誇るシステムとして紹介されてきた。筆者も経験あるが、海外のほとんどは宅配どころか郵便すら適当で、日本の配達員、配達業者のレベルの高さを再確認させられる。日本にもそうではない配達員、配達業者は存在するというのはもっともな話だが、海外のほとんどはそんなレベルを超えている。遅延は当たり前だし荷物の扱いもぞんざい、そもそも届かないまま行方知れず、センターに足を運んでもスタッフみんなで笑って首を振ってみせたりする。日本が世界に遅れを取り始めたと言われて久しいが、物流の現場に関しては日本人の気質によるものか、いまだに世界のトップクラスと思っている。荷物が届くのは当たり前、なんて素晴らしい国なのだ。しかし困ったことに、そんな素晴らしい日本の物流現場が蔑ろにされる、これもまた、日本のロジスティクス軽視という悪い部分なのだが、現場の努力を蔑ろにするような、サービスにあぐらをかくルーズな「神様」が「お客様」として横暴を繰り返す。

「時間指定専用のコースと配送員が設定されていればいいのですが、私の元請負先はそうではありませんでした。顧客の確保以上に配達員の確保は重要です。その点、事業者も努力すべきですが、お客様のご協力があってこそだと思います」

 宅配に限らず物流業界の慢性的な人手不足はこのコロナ禍、さらに悪化している。筆者は免許制度の度重なる改悪も遠因と考えるが、将来的には2トン以上の自動車に乗れるドライバー数は少子化と新たな免許制度(現行法の普通免許は車両総重量3.5トン、最大積載量2トン未満まで)により大幅に減少するだろう。そこまで先の話でなくとも、もう「誰かが運ぶだろう」という時代は終わりつつある。

「お客様にも受取る責任があると思うのです。以前から『再配達の有料化』という話も出ていますが、このままだと本当にそうなりかねないと思います」

 事実、一部ネットスーパーは再配達手数料を導入している。スーパーの場合は生鮮食料品があるため配達員だけでなく店も死活問題、受取拒否にはキャンセル手数料も徴収している。まだ一部業者に限られているが、このまま一部の客による『どんな勝手な要求をしようと運んで当然』が繰り返されれば、大手宅配業者や巨大ネット通販も追随する可能性が高い。

 物流は荷主、配達員、客の相互協力によって成り立つ。届かなければ困るのは客、勝手に振る舞っても届くとするなら、その便利と当たり前は、誰かの犠牲で成り立っていることを忘れてはならない。

 それにしても時間指定で置き配なしの不在を連絡もなしに繰り返したあげくに再配達をすっぽかす客、もはや営業妨害という以外なにものでもない。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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