定例記者会見で若年層に新型コロナウイルスのワクチン接種を呼び掛ける東京都の小池百合子知事。2022年4月15日[東京都提供](時事通信フォト)
右が嫌だから左に行くと、左の雰囲気にもなじめずに「どこにも行き先がない」と感じているらしい丸尾さん。社会生活をしていれば、学校で会社で、同じような思いをすることは少なからずあり、今回もその一つとして受け止めるしかないのかもしれない。だが、みずから「親や先生の言いなりみたいに、可もなく不可もなく生きてきた」というだけあり、接種するかしないか、初めて自分だけで「決断」しなければならない状況に追い込まれ、パニック状態に陥ってしまっているようだった。
そして、丸尾さんの勤務先で決定的な出来事が起きる。ワクチン接種済みの女性上司がコロナに感染し、丸尾さん以外の店舗従業員全員の感染も、のちに発覚したのである。
「女性上司の旦那さんは同じ会社の本社勤務の幹部で、ノーワクチンだと威張っているような方でした。でも、女性上司の感染が発覚後、旦那さんも、同じ部署の人もみんな感染していたのか濃厚接触者に認定されたのか、誰も出社していなかったんです。結局、症状もなく女性上司との濃厚接触がなかったの私一人で店を回すことになり、ゴールデンウィークの休みもゼロ。ワクチンを打ってても感染するのに、結局私はワクチンを打っていないし、かかっても平気だろうということなのか、私だけが駆り出された形です」(丸尾さん)
自分は被害者ではないのか、そう考えてネットでいろいろな情報に触れるうちに、様々な思いが去来したという丸尾さん。打つべきか打たぬべきか、結局誰が言っていることが正しいかもよくわからない。丸尾さんの中では「調査」のつもりだったのだろうが、思い込みによって自身の求める情報、好みの情報ばかりをつまみ食いし、情報の精査も行ってこなかった。気が付いた時には、自分自身がどこに立っているのかすらわからない、そんな気持ちにもなったという。
いま、丸尾さんはワクチンの接種を検討しているので、先日、最寄りの保健所に電話で相談した。ところが、「なぜ打たなかったのか」としつこく理由を聞かれ、最後には「最初から打っておけば心配することはなかった」と言われ、自分が非難されているような気分にさせられたというのだ。もっとも、これはあくまで丸尾さんの気持ちがそう受け取ったのであって、保健所窓口の担当者が、個人的な非難の気持ちをぶつけてきた確証はない。