新型コロナウイルスワクチンの3回目接種を受ける岸田文雄首相(左)2022年3月4日(時事通信フォト)
3年もの間コロナ対応に忙殺される保健所や病院などの対応に、新規感染者が幻滅する例もある。わかりやすく言えば、病院や看護師は「コロナ慣れ」しているから患者対応も淡々と進めるだけだが、患者のほとんどは「初感染」。怯える感染者と病院や看護師のテンションにはすでに大きな差があるのだ。「なぜ今までワクチンを打たなかったか」というのは、ただたんに最初に発送された接種券が使われなかったことの理由を報告のために聞いているだけの可能性が高く、最初から打っておけばというのは、今後のワクチン接種も早めにお願いしますという意味しかなかった可能性が多い。しかし、不安な気持ちを持て余している丸尾さんのような人たちからは「対応が雑」と思ったと愚痴が聞こえてくることも少なくない。
そして、丸尾さん個人の問題はまだ解決していない。気後れから、今なお接種への踏ん切りがつかないという。
「社内では、わざわざ『接種をしてない方へ』というメールが全員に送られてきます。打ってない人だけに送ればいいものを全体送信しているのも意図を感じる一方で、店舗で感染者が出た件は全体に周知されていない。打つのも打たないのも自由、と言っていた人はワクチン接種推進派、否定派のどちらにもいなくなっていて……」(丸尾さん)
打とうとすると「今更」と言われ、打たないと白い目で見られる。以前にもまして、何が正しく、誰が言っていることが本当なのかわからなくなったという丸尾さん。気持ちに振り回されて決断や行動ができない丸尾さんのような人は、特殊な事例ではなく、ありふれた人として大勢、存在するだろう。誰もが理性的になり冷静に決断することはできないものだ。どちらかというと、人当たりがよく皆に好かれるようなタイプの人が多いかもしれない。それが、この厳しい現実のもとでは弱者のような存在になってしまうとは。
新規感染者数が落ち着いてきたとはいえ、まだまだ余談をゆるさない状況は続いており、対応に追われる部局はどこも目の前のことで精一杯なままだろう。まだしばらくは、不安な気持ちで困っている人たちの救済や丁寧な説明について、正直なところ、後回しにせざるを得ないようだ。