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ボーダレス時代に「自国ファースト」が支持される理由 “国家の悪循環”を断ち切れ

各地で自国第一主義が台頭(イメージ。Getty Images)

各地で自国第一主義が台頭(イメージ。Getty Images)

 ロシアのウクライナ侵攻は、21世紀になってもなお政治・軍事上の要請が経済的な合理性を凌駕してしまう現実を象徴している。だが、その一方で、経済を無視しては人々の生活が立ち行かない以上、「力による現状変更」を企図した指導者はそのままでは生き残れない。世界的ベストセラー『ボーダレス・ワールド』の著者・大前研一氏は、“ウクライナ戦後”の世界においても、経済のボーダレス化は不可避かつ不可逆的なものだと主張する。

 * * *
 今回あらためてテーマとして取り上げたいのは、「21世紀国家の繁栄とは何か」という問題です。

 我々は普通、国というと「国民国家」、いわゆるネーション・ステートというものを思い描きます。主に19世紀から20世紀にかけて世界各地に形成され、たとえば、いま世界196か国(2021年3月時点)と言った時の「国」がそれに当たります。国際連合(国連)というのは、その国民国家の集合体ということになります。

 私は1990年代から、アメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で公共政策学を教えています。そこでは「地域国家論」という講座を持ち、そのものずばり『地域国家論』(講談社/1995年刊)という本も出しました。英語版のタイトルは“The End of The Nation State”、すなわち「国民国家の終わり」です。

「国民国家」とボーダレス経済

 そもそも国民国家とは何か? それに答えることは意外に難しいです。まず、国家の定義としては、明確な国境があって、その領土の中に国民が居住し、その国民が主権者となって国の諸制度を決めていく。主権国家は憲法(国家の基本法)を持ち、国民を代表する政府が国防・外交・財政などを所管している──といった定義もできます。

 また、歴史的な経緯から見ると、絶大な権力を誇っていた国王中心の絶対王制に対して、17世紀のイギリス市民革命やフランス革命(1789年〜)などが起き、国民中心の国家運営ということで、国民国家が形作られていきました。アメリカ(独立宣言は1776年)は、そのイギリスやフランスの市民革命のコピーでできあがった国家と言えます。

 国民は、主権者としてさまざまな権利を与えられることになったと同時に、納税や兵役、教育などの義務を負うことになりました。また、国家の一員として帰属意識を高めるために国歌や国旗への敬礼、言語の標準化といった統制も受けました。

 しかし、それらはすべて「国境が閉じている」という前提で成り立つことです。国境が閉じているからこそ、国民意識=ナショナリズムが重視され、国という枠組みの中で経済の成長も考えられてきました(図表1参照)。

【図表1】

【図表1】「国家」の役割が問われている

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