しかし今、起きているのは経済のボーダレス化、グローバル化です。私は1990年に『ボーダレス・ワールド』という本を英語で出版しましたが、モノ、カネ、情報が軽々と国境を飛び越えるようになれば、ビジネスも国境を越えて発想していかなくてはなりません。ネット隆盛の時代に、国民国家という国境の中だけの枠組みで考えていたら、企業は死に絶えるしかない──というのが『ボーダレス・ワールド』の基本的な考え方です。
当初は世界中の経営者がこの本の主張にひっくり返りました。同書もまた、国民国家の限界というものを明確に指摘していたからです。
ボーダレス社会、ボーダレス・ワールドでは何が起きるのか?
それまでの工業化社会の勝者が凋落し、経済格差がどんどん拡大していきます。さらに、非常に貧しい国や地域から移民・難民が国境を越えてやって来ます。となれば、異なる民族同士が争うようになり、民族紛争も起こります。
また、生活者の多くが現状に不満を持つようになります。当然、自国の政府や政治に対しても怒りの矛先を向けます。
そうなってくると今度は、政治家は票が欲しいために、「自国ファースト」「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の政策を掲げるようになります。まさに古代ギリシャの末期に見られた「衆愚政治」の再現となるわけです。
「国」にしがみつけば落ちぶれる
新刊『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』でも解説しましたが、ボーダレス化やグローバル化が進んだ今の世界では、「国家」の枠組みにしがみついて「あの国が我々の脅威だ」「移民・難民が仕事を奪う」と叫べば支持者が集まってくる、という状況が至るところで見られます。「自国ファースト主義」や「ポピュリズム」がはびこっているのが現状です(図表2参照)。
【図表2】「国民国家」の壁にぶち当たる世界
その筆頭は、アメリカのドナルド・トランプ前大統領ですが、後任のジョー・バイデン大統領も「トランプイズム」からなかなか抜け出せずにいます。
それから、イギリスのボリス・ジョンソン首相。ブレグジット(イギリスのEU離脱)を主導して、返す刀でFTA(自由貿易協定)では「自国ファースト」を主張しています。この人物は、歴史的に最も愚かなイギリス首相として名を残すと思います。