それから、日本も安倍晋三元首相や菅義偉前首相はどんどん借金をしてツケを後に回すアベノミクスという経済政策を続けて大衆におもねり、自画自賛する「ミー・ファースト」の政治を続けてきました。岸田文雄首相も、それを継承しつつあります。新型コロナ対策では的外れの連続で、コロナ敗戦・ワクチン敗戦が続いていますが、異次元金融緩和と国債頼みで何とか“延命”し、ほかに代役がいないという理由で続投しています。
中国の習近平国家主席は独裁者ですが、ポピュリスト(大衆迎合主義者)であることは同様です。巨大IT企業や裕福な経営者に利益を還元するように圧力をかける「共同富裕(共に豊かになる)」のスローガンなどは、大衆迎合の典型です。また習近平の場合には、香港だけでなく、台湾も南シナ海・九段線まで自国領だと主張し、「中華民族の復興」「一帯一路」の新・植民地主義などで愛国心を?き立てます。
また、強権体制下でロックダウンをいち早く実施して、「ゼロコロナ」を標榜しています。もともと習近平1人に権力が集中することには懸念があったものの、結果的に、徹底的な汚職追放を含めて、国民の人気を得ています。
ほかにも、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相やポーランド与党「法と正義」党首のヤロスワフ・カチンスキ元首相は、EUや西側のリベラリズムに異を唱え、国内のナショナリズムを煽っているポピュリストですし、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領など独裁政権は枚挙にいとまがありません。
こうした「ミー・ファースト」の政治家はトランプ前大統領に象徴されるように、移民・難民の受け入れに反対して国民の愛国心を鼓舞することで支持を集めています。
現実を見れば、「ダイバーシティ(多様性)」が世界をリードしていて、国民国家という時代遅れの枠組みにこだわっていたら、富も人材も不足して、国が落ちぶれ、国民が貧しくなるだけなのですが、それと反対の甘いことを言ってくれるのが政治家の役割で、有権者はそういう人に投票する、という悪循環が続いています。
この悪循環を断ち切るにはどうしたらいいのか──ロシアのウクライナ侵攻後の世界に突きつけられているのは、そういう根源的な問いなのです。
※大前研一『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館)より一部抜粋・再構成