「大学の半期の授業では、じっくり本を読ませるところまではいけませんから、どうしても、『授業プラス学生に自分で読書してもらう』の二本立てになります。授業はその年によって話し方を変えたりもしますし、毎年しゃべっていると、だんだんストーリーが凝縮されてくるんです。
この本は一気に書き上げていますが、長年の蓄積があって、何度も練習してきた話です。ぼくは15年ぐらいツイッターをやっていて、そこで見てきた現代思想への反発や誤解も、先回りして説明する工夫もしています」
デリダを「概念の脱構築」、ドゥルーズを「存在の脱構築」、フーコーを「社会の脱構築」とそれぞれ説明する。その源流にある、ニーチェやフロイト、マルクスの思想も解説しながら、歴史的な知識を詰め込むのではなく、思考術のパターンとして紹介する。
現代社会の複雑さを、複雑なまま、単純化せずに捉えるにはどうしたらいいか。哲学の本には珍しく、「ライフハック(仕事や生活に役立つ技術のこと)」という言葉で説明したりしながら、スムーズに実践へといざなう。
「学問は、『使ってなんぼ』と思ってるので(笑い)。考え方のOS(オペレーティングシステム。コンピューターを動かすための基本ソフトウエア)、自分の生活に結びつくような思考術のパターンをしっかり教えるほうが、長期的に見て独学力を高めることになると思います」
プロとは「自分の頭の中身を総とっかえできちゃう人間」
この本のコピーは「人生が変わる哲学。」である。
「挑発しています。自分の価値観を変えたくない人は意外に多くて、特に中高年の男性に多いですね。ただ、『人生を変える哲学。』だと、この本によって無理やり変えられるようで、嫌だと感じる人がいるかもしれない。『人生が変わる哲学。』にすると、いつのまにか、ころっと変わっちゃうニュアンスが出て、多少、抵抗感も和らぐかな、と。
ふつうの人は、学者になる、プロになるには、自分の考えをしっかり持つことだと勘違いしがちです。そうではなくて、プロというのは、自分の頭の中身をいつでも総とっかえできちゃう人間のことです。自分が変わることを怖がらない。スケボーのオリンピック選手が、危険な技に平気で挑めるのと同じです」
「盗んだバイクで走り出す」という有名な歌詞がある。本の冒頭で、かつては体制批判と受け止められたこの歌詞が、現在では「他人に迷惑をかけるなんてありえない」という捉え方もそれなりにあると書かれていて驚いた。
「ネットでは結構、話題になった話ですね。コロナ以前は、フーコーが論じた監視批判について話すと、『治安の維持に重要だからもっと監視をやったほうがいい』という学生のコメントが、少数ですがあって、ぎょっとしました。コロナ後は、『まさに今の状況だ』というふうに、学生の反応がヴィヴィッドになっていますね」