コロナ禍が長引いたことや、ロシアのウクライナ侵攻など先行きが見えない社会状況も、この本への関心を高めているように思える。
「たまたまですけど、結果的にそういう面はあるでしょうね。日本では、特に東日本大震災以降、管理社会化を今後、どうしていくかというのが漠然とした大きなテーマだったと思うんですけど、今回のコロナで、生活の制限だとか、全体のために一部を犠牲にしなきゃいけない、といった局面が一気に強く出てきました。21世紀の社会状況を象徴するようなできごとだと思います。
時代論になるけど、今は、損をしたくないという感情が非常に強くなっています。自分が損したくないという気持ちを押し広げて、誰かが得をしていると、『ずるい』と非難する。ネットで誰かの不祥事を叩いて炎上させるのもそういうことですよね。損か得か、善か悪かの二項対立で判断する人が多くなっているけど、物事はそんな単純に割り切れない。人とのつきあいだって、損も得も両方ある。もっとずっと複雑で、そういうリアリティにこそ人生の喜びはある。20世紀からの、そういう考え方を引き継いでいかないと、どんどん息苦しくなると思います」
【プロフィール】
千葉雅也(ちば・まさや)/1978年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は哲学・表象文化論。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけない』『ツイッター哲学』『勉強の哲学』『思弁的実在論と現代について』『意味がない無意味』や、小説『デッドライン』『オーバーヒート』『マジックミラー』などがある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2022年6月30日号