遺伝子変異があるとリスクが上昇する「がん」

遺伝子変異があるとリスクが上昇する「がん」

「女性のがん」だけじゃない

 米女優のアンジェリーナ・ジョリー(47)は、その遺伝子変異を持つ1人。母や叔母が若くして卵巣がんや乳がんを患い死亡していたこともあり、遺伝子検査を受けたところ、母からBRCAの変異を受け継いでいることがわかった。変異があっても必ず罹患するわけではないが、2013年、ジョリーは手術を決断。両乳腺を予防的に切除した。

 BRCAの変異によるがん発症について、中川医師が解説する。

「BRCAは、細胞のがん化を防ぐ『がん抑制遺伝子』として働きます。父母から受け継いだどちらか一方のBRCAが生まれつき機能しなければ、がんを発症しやすくなる。いわば、坂道を下る自転車の前輪のブレーキが最初から壊れているようなものです。後輪のブレーキが利いているうちは問題がないように見えますが、それが壊れた途端に大事故につながります」

 BRCAの変異で発症するがんは、女性に多い乳がん、女性特有の卵巣がんが知られていた。

「欧米のデータでは、BRCA1/2の変異を持つ女性が80歳までに乳がんを発症する確率は約70%前後とされ、若くして発症しやすい、両方の乳房にできやすいなどの特徴があります」(同前)

 最近、日本でも新たな研究結果が出た。

 理化学研究所や東京大学などの共同研究グループが、日本人約10万人の遺伝子を疾患情報と合わせて解析、BRCA1/2の変異と発がんリスクに関する研究結果を今年4月に公表。BRCA1/2の変異で「胃がん」「膵臓がん」などのリスクが高まるとの結果が出た。男性の罹患者も多い部位のがんである。

 詳しくは別掲の図に示したが、BRCA1/2の変異があると、発症リスクは胃がんで約5倍、膵臓がんで約12倍高まるという結果だった。

「これまで日本人を対象にした家族性腫瘍の大規模な疫学調査はありませんでした。今回の結果は衝撃的でしたが、そもそもBRCAの変異の割合は欧米のデータで400~500人に1人程度であることも知っておきましょう」(中川医師)

※週刊ポスト2022年7月1日号

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