ドラレコ映像も人気が高い(イメージ)
視聴者映像さえあれば番組が作れるのか?
葛藤するのも過去のことと嘆く藤岡さんだが、視聴者映像を流せば流すほど、視聴者からテレビ局に提供される映像は増えていく現実は、一度やるとやめられない「薬物」のようなものかもしれないと打ち明ける。
「可愛いペットの映像を放送したら、うちの子の方が可愛いという感じで、視聴者からどんどん映像が送られてくる。だから極端な話、こっちは口を開けて待っているだけでコーナーが作れてしまう。スマホが普及する以前から、視聴者映像を取り上げる機会がなかったわけではありませんが、かつては情報番組の一部でしか取り上げられなかったものが、今ではバラエティや報道番組の中でもコーナーに格上げされ、各社が競って視聴者映像を使っています。作るのは楽だし数字が取れる、さらに新たな映像が押し寄せてくる…テレビマンにとって、ある意味薬物のようなもの」(藤岡さん)
ごく一部の特別な事例を除けば、こうした映像提供、使用に際して、視聴者に金銭的な報酬は発生しない。報酬がある前提で募集すると、とたんに巧妙なねつ造や盗用をした上で応募する視聴者が増えるため、真贋確認の人手と時間を考えると報酬がない前提で募集した方が、事故ない放送に繋げるには現実的でもあるからだ。そして実際に映像提供の交渉を何度も繰り返してきた藤岡さんによれば、提供したくない人に深追いすることはしないし、本心から映像見てほしいと思っている人は、厄介な条件を出してテレビ局側を試すようなことはしないものだという。
となれば、放送されば視聴者も喜び、制作側としても安易に安く番組が作れるのだから「ウィンウィン」の関係にも見えるが、かつては確実に存在していた「テレビに取り上げられた」というバリューが日々低下していく中で「ネットを見ておけば事足りるんじゃないですかね」と息を吐く。
民放キー局勤務の社会部内勤記者だった小島舞子さん(仮名・30代)も、視聴者映像に頼りすぎている現実を「テレビはネットの後追いをしている」と冷めた目で見ていると明かす。
「テレビ局の報道の仕事は、絶対になくてはならない一方で、他部署や経営陣からは金ばかりかかって収益につながらないと言われています。そういう考え方のためなのか、最近は、例えば天気が大荒れになる、という予報があっても現場に記者やカメラマンを出さず、できるだけ視聴者映像で済ませよう、という向きがあるんです。実際に、収益に繋がらない報道の現場は人を減らされていて、こうした傾向は年々強くなっています」(小島さん)