2020年に調教師試験に合格した名手・蛯名正義氏
新馬戦は馬同士が初めて顔を合わせるのですが、だいたい牡馬は意気地なしで牝馬が勇敢ですね。もちろん気にしない馬もいるけれど、パドックとかでヒンヒン鳴いているのも牡馬が多い。それでいて、牝馬にちょっかい出してみようかとか、よこしまなことを考えたりしている。
自然の群れの中では年を取った牝馬が一番先頭を走るといわれている。これまでの経験値があるので、肉食動物に襲われないように、いつでも目を凝らしているようです。いざという時は仲間の馬たちを誘導していかなくちゃいけないという危険察知能力なのかもしれない。
調教なんかでも牡馬の方が扱いにくいケースが多いけれど、付き合っていくうちになんとか指示に従うようになってくる。ところがこちらを手こずらせるような牝馬はヤバい、もうどうにもならない。
そんな相手には妥協と忍耐、決して上から目線で相対したりしません。下から下から、女王様に対するように接します……あ、馬の話ですよ！
【プロフィール】
蛯名正義（えびな・まさよし）／1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。
※週刊ポスト2022年7月22日号
