エンジェルドレスが柔らかな印象になるよう、生成りのコットン地に淡い黄色やピンク、グリーンのドレスを施した
お腹を痛めた母親にとっても、わが子の誕生を待ち望んだ家族にとっても、元気な産声は、幸せと喜び、安堵をもたらす何よりの実感となる。けれども、すべての妊婦が、出産後に幸せや喜びに浸れるわけではない。さまざまな理由で、お腹の中で胎児が亡くなり、流産や死産に至るケースは少なくない。医療が進歩した現代の日本でも、いまだ約50件に1件が死産という統計がある。
厚生労働省が発表した「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」によると、自然死産のほか、産みたい意思があるにもかかわらず胎児や母体のトラブルで人工死産を選択せざるをえなかった数も含めると、死産の数は1万7278件にのぼった。出生数のうち約2%が死産なのだ。
けれど、死産を経験した母親や家族に対する精神的なケアが行き届いているとは言いがたい。母親への配慮からか、遺族が希望しない限り、赤ちゃんと面会させなかったり、ガーゼで包んだ赤ちゃんをステンレス製の膿盆にのせて母親に見せたりする産院も珍しくない。佐賀大病院が使用するエンジェルドレスを考案、開発した看護師の山本智恵子さん(44才)は語る。
「亡くなっていたとしてもお母さんやご家族にとっては、大切な赤ちゃんには違いありません。もっと大切にすべき存在だと感じていました」
山本さんは、柔らかな手触りを確かめるようにエンジェルドレスの生地をなでた。
「死産を経験されたご両親、特にお母さんは、暗闇のなかにいるような心境だと思います。私たちは、そのなかで一筋の光を見出してほしいという気持ちで、このドレスを作っています。エンジェルドレスが、暗闇のなかにいるお母さんの希望になるかもしれませんから」(山本さん)
(第2回へ続く)
取材・文/山川 徹(ノンフィクションライター) 撮影/宮井正樹
※女性セブン2022年7月28日号
ドレスを作る山本さん
山本さんは障害者のグループホーム「ファミリン」で働きながら、その2階にある作業場でエンジェルドレスの制作も行う
グループホーム「ファミリン」
宮崎さん(左)と東さん(右)が一つひとつ手作業で「エンジェルドレス」を作っていく
渡辺さん(右から2番目)らと新作のエンジェルドレスについて打ち合わせをする山本さん