気管支鏡を巧みに動かし、モニターを見ながら、気管内に浸潤したがんをマイクロ波で焼灼する筒井医師。甲状腺がんの気道浸潤を専門とする気管支鏡下腫瘍焼灼術を行なっているのは世界で唯一

気管支鏡を巧みに動かし、モニターを見ながら、気管内に浸潤したがんをマイクロ波で焼灼する筒井医師。甲状腺がんの気道浸潤を専門とする気管支鏡下腫瘍焼灼術を行なっているのは世界で唯一

 7月、甲状腺左葉に乳頭がんが発生した30代女性の手術を取材した。ハサミ型の器具で、組織を挟むと凝固切開できる「エナジーデバイス」、神経の位置や働きを確認し、術後の声帯麻痺の予防に役立つ「術中持続神経モニタリング」など最新の手術器具を駆使しながら、精緻な手技で切除していく。出血を抑え、手術時間の短縮にもつながるエナジーデバイスは当初腹腔鏡手術のために開発された。筒井医師はそれをいち早く甲状腺手術に導入した。

「狭い術野で行なう甲状腺手術にエナジーデバイスを使うと出血が少ないため、常に術野がクリアで臓器の温存がしやすくなります。しかし、腹部用のものは甲状腺手術では使いにくかった。2010年には、待望の甲状腺手術のために開発されたエナジーデバイスが日本に上陸。自在に使いこなせるよう常に持ち歩いていました。空いた時間は自宅でもデバイスを手に操作したり、くるくる回して手慣らしをしていました」

 最先端デバイスや技術を融合し、様々な治療法を世に送り出してきた筒井医師は「甲状腺がん治療の革命児」とも評される。

「元々は呼吸器外科を専攻していました。それが甲状腺疾患で名高い伊藤病院で研修してきた先輩医師の甲状腺手術に魅せられ、30代の時、志願して伊藤病院で指導を受けました。呼吸器と甲状腺の両方での経験と技術が新たな治療や発想の源泉になったと思います」

 医師だった祖父を見て育ち、小学生の頃から医師になりたいと思っていた。商社マンだった父のベネズエラ赴任が決まった時は小6だったが、「中高を南米で過ごしては日本で医師になるのは難しい」と考え、家族を見送り、1人だけ日本に残って親戚の家から学校に通った。医療で人の役に立ちたいという思いは、半世紀前も今も一貫している。

「いくつもの難手術を乗り越える力になったのは、何よりも助手として支えてくれた甲状腺外科のスタッフです。この仲間との団結力が私の最大の強みです。磨いてきた外科手術で患者さんに貢献したい。でも、1人でできることは限られています。若手外科医に培った技術と経験とを注入して一流の専門医に育て上げ、日本の甲状腺外科に貢献していきたいです」

撮影/内海裕之 取材・文/上田千春

※週刊ポスト2022年7月29日号

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