36人もの命が失われた京都アニメーション放火殺人事件(2019年。写真/共同通信社)

36人もの命が失われた京都アニメーション放火殺人事件(2019年。写真/共同通信社)

 ローンウルフ型犯罪は、日本ではここ十数年の間に急増している。

 だがその一方で日本の暴力犯罪の総数は年々減っており、2003年に705人だった他殺による死亡者数は2013年に342人と、1日1人を下回り、その後も200人台で推移している。それなのに多くの人が「犯罪が増えた」と感じるのは、得体の知れない恐怖とインパクトを残すローンウルフ型犯罪の“濃度”が上がっているからにほかならない。

「殺人が減少しているのに対し、自殺者数は失業率とともに上がっています。ローンウルフ型犯罪の犯人の中には失業者も多くいますが、これは“追い詰められたときに自殺ではなく他殺を選ぶ人が増えた”ということではない。

 失うものが何もない『無敵の人』は、昔から存在していました。しかし、犯罪に走ろうとしても実行方法がわからなかった。それがいまは、ネットで簡単に知識も、道具も得られる。こうした犯罪は今後、ますます増えていくでしょう」(出口さん)

 経済格差が広がり、人と人との関係が希薄化して社会が包摂機能を失っているいま、この瞬間も、息をひそめて復讐の機会をうかがっている狼たちがいるのだ。

匿名のSNS投稿が凶悪犯の背中を押す

 犯罪を企てる者が殺人の知識をネットで得て、実行している。やはりネットの存在こそが諸悪の根源だと考えそうになるが、ITジャーナリストの三上洋さんはその考えをきっぱりと否定する。

「ローンウルフ型犯罪の根本的な原因は、ネットではありません。本気で殺人を企てる者は、たとえネットがなくても、別の方法で情報や道具を得て実行するでしょう。YouTubeに凶器の作り方の動画をアップロードしたり、『Tor』というツールを使って、通常のネットから直接アクセスできない『ダークウエブ』で違法な取引をする人間のリテラシーこそが問題です」(三上さん・以下同)

 今後本当に心配しなければならないのは、違法な動画でもダークウエブでもなく、クリアネット(ダークウエブの対義語で、一般的に利用されているインターネットのこと)で起こる「怒りや恐怖の増幅」だ。

「事件や災害が起きると、SNSを中心に、差別用語などを使った過激な議論やいがみ合いが増えます。これは、東日本大震災の直後や、コロナ禍の初期にも起きていたこと。大きな社会不安による動揺から、怒りや恐怖、漠然とした不安で他者の言葉に敏感になり、負の感情をぶつけ合うのです。今回の銃撃事件も、犯人が逮捕されてからも、SNSが大きく荒れ続けている」

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