2013年にNPBのシーズン60本塁打を記録したバレンティン(時事通信フォト)
一方、今年のヤクルトは首位をひた走っている。各チームが全力で止めようとすることになるので、村上も厳しいマークに遭うことが懸念される。
そもそも“記録更新”が近づけば、他球団がより警戒を強めるのが常だ。
阪神のランディ・バースは1985年に残り3試合の時点で54号を放ったが、その後はまともに勝負してもらえず、王の記録を塗り替えられなかった。ベテランスポーツ紙デスクが語る。
「あの時のバースは、最後の2試合の相手が王監督率いる巨人だった。『外国人打者に超えさせるわけにはいかない』という空気がグラウンドに漂っていた。巨人の投手はまともにストライクを投げず、必死にバットを振ってヒットにしていたバースが気の毒でしたね。
当時と状況が違うとはいえ、“村上に新記録を達成された投手”という不名誉なかたちで球史に名を残したくないと考える投手心理は自然なもの。バースほどではなくても勝負を避けられることは十分考えられます」
村上はリーグ断トツの73四球を選んでいる。すでに勝負を避けられているが、「だからこそ我慢が必要になる」と、大洋のエースとして活躍した平松政次氏は語る。
「王さんと何度も対戦するなかで一番凄いと思ったのは、失投を見逃さないところだった。甘い球は逃さず、スタンドに運んでいた。もちろんこっちは王さんにインコースを意識させながら、アウトコースで勝負をしていたが、ピッチャーにはどうしても失投があるもの。
村上はピッチャーから見れば、広範囲に打つため穴が少ないバッターです。しかし、甘い球を確実にホームランにする技術は王さんの域に達していないかな。これからも内角攻めや四球が増えてくるだろうけど、失投も必ず来る。その球を逃さずにきっちり打てるかがカギになるだろうね」
ホームランバッターには“スランプ”がつきものというイメージがあるが、その期間をいかに短くできるかも重要なポイントだ。城之内氏が語る。
「調子が落ちた時に、村上がバットを振ってランニングができるかだろうね。王さんは、試合の1時間前には球場に来てランニングすることで体を作り、試合前後は荒川博コーチにスイングを確認してもらっていた。それでスランプの時期が短くなった。シーズン中はどうしても余裕がなくなるけど、それをやり続けられる選手が、記録を達成できるんじゃないかな」
スランプを短くする一方で、記録達成には固め打ちも不可欠だ。1964年の王は、5月の阪神戦で4打席連続ホームランを記録している。
同年に入団し、「V9戦士」としてショートを守った黒江透修氏はこう語る。
「村上は王さんと違って、アウトコースでもホームランにできるパワーを持っている。ただし、これはプラスに働くこともあればマイナスもある。王さんはこのコースに来れば、確実にライトスタンドに運べるというホームランポイントを持っていたから、それ以外のコースをファウルでかわし、得意なコースでの勝負に徹した。だからこそ固め打ちで本数を伸ばせた。
村上もピッチャー陣がへばる8月には勝負するポイントを固めたい。それが量産できるかのキーとなるでしょう」