2022夏の甲子園、大阪桐蔭に勝利し、応援席に向かって駆け出す下関国際ナイン。地元・山口県出身の選手がほとんどいないことでも話題だった(時事通信フォト)

2022夏の甲子園、大阪桐蔭に勝利し、応援席に向かって駆け出す下関国際ナイン。地元・山口県出身の選手がほとんどいないことでも話題だった(時事通信フォト)

 そういった声をすべて封じ込めたのは、黒木さんのチームが夏の甲子園大会で上位まで勝ち進んだから。地元に帰ると、地元商店街の人も、役所の人も、駅やバスの係員まで誰もが「おめでとう」「感動した」と声をかけてくれた。

「やっとわかってもらえたと思いましたね、素直にうれしかった」(黒木さん)

 しかし、甲子園が終わってしまえば、あとは高校を卒業するだけ。就職や大学進学、あるいは野球のプロの道に進むかと悩んだ黒木さん。この時も、地元出身の友人から衝撃的な本音を聞いた。

「高校三年間過ごしてもう二度と帰ってこないって言うのは寂しいね、といわれました。せっかくここで認められて……ていうときに。野球だけのためにここに来たんだろう、そう言われている気がして。そんなことを考えていると、この土地に残って学び、野球もしたい、地元の人に恩返しもしたい、そんな気持ちが芽生えてきたんです」(黒木さん)

 そんな思いから、大学は野球推薦という形で高校からほど近い私大に進学。恩返しをしたいという思いはさらに強くなり、大学卒業後は私大が所在する自治体の職員になった。

「今でも、あの(甲子園の)時のあの子!なんて驚かれる方もいます。まだ覚えてくれているんだと……ちょっと感激しますよね。外人部隊と揶揄された時は、まだ子供だったし本当にショックでした。しかし、それを乗り越えたから今があるんです」(黒木さん)

 我が国では、少子高齢化が進み、学校の統廃合が進んでいる。勉強だけ、スポーツだけ、といった偏ったイメージを払拭すべく、新たに有力な中学生をかき集めているような高校も少なからずある。野球だけではなく、サッカー、バスケ、バレーなどあらゆるスポーツの世界でも、少子化による競技者減を回避すべく動いている。海外から、スポーツなどで日本の学校に留学してくるパターンも増えてきているが、それを問題としてとらえたり、快く思わない人々が一定数いるのも事実だ。

 これを批判的に見る向きもあるだろうが、だが現実として、このような風潮は各地、各学校で進んでいる。

 黒木さんのように幸せになれるパターンは決して多くないかも知れない。ただ、外人扱いされる彼ら彼女たちは、自分のやりたいこと、決めた道に子供のうちから挑戦し、陰口を言われても懸命にやっているのだ。

 学びにしろスポーツにしろ、時代に合わせてその姿形は変わっていく。一面だけを切り取った「外人」批判も、この時代の流れとともに消え失せていけば、子供達に多くのチャンスが生まれると思うのだが、どうだろうか。

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