2008年北京五輪。公然と販売しているダフ屋(時事通信フォト)

2008年北京五輪。公然と販売しているダフ屋(時事通信フォト)

 都内の会社員・中島ゆずかさん(仮名・30代)は、とある俳優の熱狂的なファンで、アイドルファンの藤原さんのように、知人に頼むなどして様々な手段で、俳優が出演する舞台やイベントのチケットを優先的に購入できる権利を所有している一人。転売チケットについて話を聞くと「買ったことも売ったこともある」と悪びれる様子はない。

「一番高いときだと、20万くらいの転売チケットを買いました。学生だし苦しかったけど、バイトしたり、いらないものをフリマアプリで売ったりしてなんとかお金を作ったんです。でも、私自身も、やっとの思いで購入できた公演にどうしても行けず、20万くらいで転売したこともあるんです。結局とんとん、プラマイゼロかなって」(中島さん)

 さて、もちろん興行主も、こうした現状を指をくわえて眺めているわけではないし、それぞれの会場では、チケットが不正に転売されたものか、名義は正しいかのチェックが年々、厳しくなっているという。

「昔は紙のチケットだったから、転売チケットを使っても、今よりはかなり楽に入れました。でも最近では、チケットを購入した人のスマホを使わないと、個人確認ができないシステムが導入されたり、かなり厳しくなってきた」(中島さん)

 ところが、ファン達(もちろん一部の、だが)は高額な転売チケットを購入してまでも、なんとか生で姿を見たいという心情である。そこで、そのチェックを突破するため、ライブ当日、転売者のスマホごと購入者に一時的に貸し、個人確認をすり抜けているのだという。相手がスマホをそのまま持ち去ってしまう危険性もあるのではないか、そう疑問をぶつけると……。

「免許証や住民票、マイナンバーカードなども一緒に貸し借りして、お互いの身分をハッキリさせています。そうして知り合ったファン仲間も多いです」(中島さん)

 こういった高額転売は、藤原さんや中島さんがファンとして推しているアイドルや俳優だけに現れている現象ではない。公式のリセールを指定している様々なコンサートやミュージカル、舞台にプロスポーツなど、どんな分野にも、違法取引であっても、自分の身が危うくなっても、望みのチケットを手に入れようとする人と、その人たちに高額で転売する人たちが出現しているのである。

 そもそも「転売ヤー」と揶揄されるほど、世間一般で「転売屋」の印象は悪い。人々が純粋に音楽や舞台などを楽しみたい、ファンになって実際に応援したいという気持ちを踏みにじっているのが連中だ。しかし、藤原さんや中島さんの口から、そうして転売ヤー達への怨嗟が漏れ出ることは、ほとんどない。転売屋も同じファンなのかもしれないから、ファン同士の転売も「互助的」「助け合い」とすら感じているのだ。当然、チケット目的でファンクラブに加入しているプロの転売屋だって相当数いるはずなのだが、そういった指摘をしても、中島さんは動じる様子はない。

「転売するな、買うなというのなら、そこから買わなくてもいいようにして欲しいだけ。ファンクラブの会費だって払っているのに、全然優遇されている気がしないし、当選することも少ない。行きたかったら、相手が転売屋だろうが犯罪者だろうが買うと思いますよ」(中島さん)

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