101歳にして現役、ピアノの前に座る室井摩耶子さん
何歳からでも「好き」に出会える
リサイタルでは、来てくださった方からの反応が、何よりの励みです。
「あんな魅力的なバッハは聴いたことがない。まるでバッハ自身が出てきて、話しかけてくれたようでした」「あのベートーヴェンの最後のソナタは凄かったぁ」などとお便りをいただき、やっぱり「生きててよかったぁ~」と嬉しくなってしまいます。
本当に人間が年を取るって、どういうことなのでしょう? 仕事って何でしょう? わたしときたら、毎日毎日をトンカチトンカチ、ピアノに指を滑らせながら、「もっと深い音や響きは出ないかしら」と呟いてみたり。「作曲家はここで、まるで森の彼方にサヨナラ、サヨナラと姿を消すのに、そのお別れの静寂さってもっと深いんじゃない?」などと自問自答したり。そんなことで日々を送っているだけなのです。
これは幼いころから変わりません。家でじっとしているような子ではありませんでしたが、ピアノだけは従順でした。母から命じられた通り、決まった時間に稽古をしていました。
朝は登校前の午前8時から30分間。学校から帰ってきたら、みっちり1時間。日々、規則正しくお稽古するものだから、ご近所の時計代わりになっていたほどでした。
これが「好き」ということなのね。だからわたしは、100歳を過ぎたいまも、現役ピアニストであり続けることができるのでしょう。わたしは「好き」を、6歳のときに見つけましたが、わたしの周囲には60歳、70歳、それ以上の年齢になってから、本当の「好き」に出会う人もいます。
いつ何どき、出会いがあるかわかりません。それにしても、よく動いてくれているわね、わたしの手と指。考えてみたら95年も鍵盤の上を飛び回っているのですもの。手と指にもお礼を言わないといけませんね。
【プロフィール】
室井摩耶子(むろい・まやこ):1921年、東京生まれ。6歳でピアノを始め、東京音楽学校(現・東京藝術大学)を首席で卒業。1945年、ソリストデビュー。1956年に独ベルリン音楽大学に留学し、海外を拠点に13か国でリサイタルを開催。61歳で帰国後は、国内を中心に演奏活動を続けている。国内で現役最高齢のピアニストとして、大手メディアへの出演も多数。新著『マヤコ一〇一歳 元気な心とからだを保つコツ』が発売即重版となり、話題に。