田所園子さん

田所園子さん

「地方では充分な治療ができないと心配する人がいるかもしれませんが、全国にあるがん拠点病院なら、どこでもほぼ同水準の治療を受けられます。

 また、これは患者さんのために改善すべき問題点の1つだと思うのですが、東京で手術を受けた後に地元に帰って薬物治療を受けようとしても『紹介もないのに何でうちで受け入れなければいけないのか』と、引き受けてもらえないこともある。他県での治療を希望する場合、地元に帰っても引き続きフォローアップや必要な治療が受けられるように主治医間で連携を取ってもらえるようにすることが必要です。また、一部の最新治療はある一定の地域でしか受けられないケースもある。実際、東北の病院では卵巣を残せる手術を行っていたので“あの治療が受けたい”と申し出たのですが、地元の病院では受けることができませんでした」(田所さん)

眉のアートメイクが闘病の支えに

 病院を決めた後は、長きにわたる治療の日々が始まる。それに伴う心身の負担は、医師であっても避けることはできない。唐澤さんを悩ませたのは、抗がん剤治療に伴う副作用だった。

「もともと、鎮痛剤や抗生物質で胃潰瘍を起こしたことがあるほど、薬に弱い体質でしたが、抗がん剤は特にひどかった。『治療で死ぬかもしれない』とさえ思いました。立っていられないくらいの疲労感に加え、全身のしびれや発疹が出て、はうようにして働いていました。副作用があまりにひどいので薬の種類を変えたら、今度は血便が出るほどの下痢になった。一時は緊急入院しなければならないほど深刻な状態でした」(唐澤さん)

 頭で理解していても受け入れがたいのは見た目の変化だ。

「薬物治療に伴い脱毛が起きることはもちろん知っていたし、むしろ『髪の毛がなくなれば、ウイッグをかぶればいいだけだから、手入れが必要なくなって楽になるのではないか』とすら考えていた。ですが現実はまったく違いました。ウイッグは想像以上に手入れが面倒だし、つけると暑い。副作用で指の皮がむけている時期でもあり、見た目の変化は想像以上のストレスでした」(唐澤さん)

居原田麗さん

居原田麗さん

 2年前に子宮頸がんが見つかった麗ビューティー皮フ科クリニック院長の居原田麗さん(41才)は、治療を始める前に眉のアートメイクを施したことが、折れそうな気持ちの支えになった。

「たちの悪いがんだと聞いていたから、抗がん剤の影響を考えて、できるうちにやっておこうと思ったんです。入院するとメイクもできないし、脱毛で眉も抜けてしまいます。しかし、見た目を気にしなくなると、病気で心細い気持ちがさらに落ち込んでしまう。“きれいでいよう”とか“かわいくしたい”という気持ちがパワーになることは、普段患者さんと対峙していても強く感じます」(居原田さん)

 髪の抜け毛は帽子やウイッグをかぶることで乗り切った。

「ウイッグも工夫次第で、自分の髪の毛よりもおしゃれに見せることができます。私はかわいい帽子とウイッグを合わせて、楽しんでいます。抗がん剤の副作用で皮膚や爪の状態が変化することに悩みを抱える人も多いと思いますが、最近はがん拠点病院に相談窓口があることもあります。“治療のためには見た目は二の次”と思わずに、ぜひ相談してほしい。きれいでいようと努力することは生きる力です」(居原田さん)

(第3回へつづく。第1回から読む)

【プロフィール】
小西敏郎さん/東京医療保健大学副学長・医療栄養学科長。消化器のがん手術を中心に行う外科が専門。2007年1月にステージIの胃がんが、2009年にステージIの前立腺がんが見つかり、どちらも手術によって切除した。毎年、年始の検診を習慣づけていたことで、早期に発見できた。

唐澤久美子さん/東京女子医科大学放射線腫瘍科 教授・基幹分野長。乳がん専門医。2017年に乳がんがステージIIの状態で見つかる。想像以上に強く出た抗がん剤の副作用に苦しみ、緊急入院したことも。心身ともに大きな負担を強いられることになった治療の日々の中、仕事にも復帰し、キャリアを重ねた。

大橋洋平さん/海南病院緩和ケア病棟・非常勤医師。2018年に年間10万人に1人といわれる希少がん・ジストを発症。非常勤医師として働きながら、現在も抗がん剤で治療を続けている。書くことが生きる力になっており、2022年11月には『緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡』(双葉社)を出版予定。

田所園子さん/緩和ケア医。2010年にステージIの子宮頸がんが見つかり、翌年に全摘出。当時、高知県で3人の子供を育てながら働いていたため、地元で治療を受けることを選択。医師として仕事に復帰してからも、自身の病気を受け入れるのには時間がかかった。

居原田麗さん/麗ビューティー皮フ科クリニック院長。2020年、ステージIの子宮頸がんが判明。その中でも小細胞がんと呼ばれる希少がんであり、広汎子宮全摘出手術をするも2021年に肝臓とリンパへの転移、2022年に腹膜播種が見つかる。現在も治療を続けており、その日々をブログでも発信し大きな反響を得ている。

イラスト/飛鳥幸子

※女性セブン2022年11月3日号

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