ライフ

セリフがなくても感情が伝わる絵の力に圧倒…漫画『トラとミケ』の“優しさ”

銭湯をめぐる切ない話も

トラとミケも幼い頃から通っていた銭湯「またたび湯」が閉じることに(単行本第4巻より)

“トラとミケ”が営む“どて煮屋”に集まるお客たちの人生模様を描く漫画『トラとミケ』の第4集が発売された。優しい画風で描かれるこの作品について、画家の塩谷歩波さんが綴る。

 * * *
『トラとミケ』は、全体的に優しい水彩色で仕上げられていますね。私も絵を描いているので、どのページの絵も、純粋にすごく素敵だなと思いました。

 描写のリアルさを感じたのは、第46話「霜夜の候」にある銭湯のエピソード。私も以前、まさに作中の「またたび湯」のような銭湯で番頭をしていましたし、全国100軒ほどの銭湯を巡ってきました。その経験から、洗い場でおばあちゃんと小さな子のやりとりが描かれているのを見て、「こういう光景、令和の今もあるな」とうれしくなりました。

 ご高齢で運営が負担になり、銭湯を畳まれるという話も、閉店の時に店主さんから子どもたちにアヒルのおもちゃをあげる光景も、よくあります。最後にはみんな、「ありがとう」と言って銭湯を後にするんですよね。こういう少し寂しい話でも、絵がきれいで、明るくて、心が洗われました。

 登場人物は、みんな優しい。居酒屋を切り盛りするトラもミケも、その常連さんたちも、街の人々も、みなが誰かのことを思っています。

 例えば、同級生の中村さんが癌で余命いくばくもないことを知ったとき、トラたちは、助かる治療法を必死に探しました。一方の中村さんは亡くなる直前まで周りの人たちのことを思って、相談に乗ったり励ましたり……。そうした優しさって素敵だと思いますし、ものすごくホッとさせられます。

 最後、中村さんが生前、自宅の庭にまいた種から青いお花が一面に咲いている描写で締めくくられます。亡くなった後にそうやって形に残るものがあるということにとても感動しました。セリフが一つもないのに、感情が伝わってきて、こんなに引き込まれるなんて。絵の力に圧倒されました。

【プロフィール】
塩谷歩波(えんや・ほなみ)/画家・設計事務所、東京・高円寺の銭湯・小杉湯の番頭を経て、現在は建物の図解を制作。著書『銭湯図解』が話題に。

※女性セブン2022年11月10・17日号

 

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン