状況を消極的に判断するか積極的に判断するかはやる気次第
周辺にアメリカ軍基地があったことで、多文化・多国籍の街となった梨泰院のハロウィンには、毎年約10万人以上が参加。警察や自治体では、今年はそれを大幅に上回る人出が予想されていた。現場を管轄する龍山警察署では、署員が予想以上の人波を懸念して危険を予測する報告書を提出したが、対策は講じられず、報告書は黙殺された。
日本では2001年7月に、兵庫県明石市で起きた花火大会の事故以来、雑踏警備が厚くなり、事前に現場に出向いて調査する実査を行い、計画を細部まで詰めるという。
「ハロウィンの渋谷では、警視庁が警備部長を本部長とする特別警備本部を立ち上げ、現場を管轄する渋谷署は署長を本部長とする現場警備本部を立ち上げたはずだ。渋谷署長が現場の責任者となって警備を仕切り、その指揮や規模、機動隊の必要性などに対応する。現場を管轄する警察署長が一番責任ある立場であり、あくまでも現場が最優先になる」と警察関係者B氏はいう。
事故発生の数時間前から、「圧死しそうだと」と危険を知らせる通報が相次いでことが明らかになっているが、龍山署はこの通報に対応し、対策をとることはなかった。
「110番通報や無線連絡など、現場からの情報で状況は判断できる。それを消極的に解釈するか、積極的に解釈するかはやる気の問題だ。捉え方により、大きくも小さくもできる。だから現場第一主義であり、責任者の裁量が重要になる」(A氏)
韓国では警察庁の尹煕根(ユン・ヒグン)長官が事故当時、知人らとキャンプ場で酒を飲み就寝。事故を知らせるメッセージや電話に気がつかず、報告を受けたのは日付が変わってからだったことが問題になっている。
それについてB氏は「国賓や皇室行事などの場合、警視庁は警視総監を長とする最高警備本部を立ち上げて警備を行う。安倍元首相の国葬は、この最高警備本部で警視総監が本部長となった。だが、雑踏警備の実施に警視総監が関与することは基本的にないが、トップの指示を仰がなくても、目の前に危険があれば、対応するのが当り前だ」。
人が大勢集まれば何らかのトラブルは発生しやすくなる。「雑踏警備は無駄も多いが、何もない事が一番いい事だ。なので、そこを省くことはない」と話すB氏は、最後にこう言った。
「警察が姿を現すだけでも効果があると信じている」