「ああ、あのヤクザマンション」

 この車両銃撃がひどく効いた。暴力団社会でのカエシ(報復)は早ければ早いほど評価されるからだ。かつて殺された組のヒットマンは葬儀に出ず、すぐに地下に潜ってチャンスを狙った。殺された日から拳銃を抱いて眠り、一日も早く報復せねばならないのだ。その日の夜、ただちに池田組長の車に撃ち込んだのだから、ヤクザの仕事としては教科書どおりだ。

 銃撃現場近くで聞き込みをすると、「ああ、あのヤクザマンション」との証言があった。昔から有名なのだという。周囲を回ってみると、駐車場にはいかつい監視カメラがあって異様な雰囲気だった。エントランスも普通のマンションとはどこか違う。

「ときどき(池田組の)お客さんらしい人が大人数でやってくる。やっぱりヤクザっぽい人ばかり」

 と説明してくれた住民もいる。近くの店から出てきた組員が、興奮した様子で電話している様子も通行人に目撃されていた。その店を直撃したのだが「お客さんのことはいえんのです」と拒否だった。ただでさえヤクザはやっかいな隣人である。地元の住民がマスコミを警戒する気持ちはよく分かる。

 カチコミのあと、実行犯はすぐさま拳銃を持って自首している。これもヤクザの美学通りの行動である。犯人は妹尾組の本部長だった。原則、本部長は組織のナンバー3に当たる。通常、鉄砲玉になるのはキャリアの浅い組員だが、2019年には五代目山健組トップの中田浩司組長も銃撃事件の容疑者として逮捕されている。妹尾組ナンバー2と3が直接手を下したなら、これも時代ということか。

 山健組若頭だった妹尾英幸初代が存命の頃、とあるトラブルで妹尾組本部に出向いた経験がある。要塞のような本部事務所を100人近い組員が取り囲んでいた。あれほど大所帯の妹尾組でも、大幹部が実行犯として走らざるを得ないなら、暴力団にとって想像以上に厳しい時代なのだろう。

 現役組員の殺人未遂なら実刑は免れない。車両へのカチコミ(襲撃)も発射罪などが加重され7、8年程度は食らう。組織の中核メンバーが懲役となる妹尾組は痛手に違いない。ただし、妹尾組にも戦略的なメリットはある。妹尾組組員が報復しても、裁判で「メンツを潰されたので自分の判断で報復した」と主張できる。次に事件をおこしても上層部が逮捕されにくい。

 今年、池田組長は六代目山口組からの抗争終結案を蹴ってもいる。今後も事件が続く可能性は高い。何度襲撃を防いでも、1回ミスすれば命を失う。『仁義なき戦い』のセリフにあるように「狙われるもんより、狙うもんのほうが強い」。防戦一方では分が悪い。

取材・文/鈴木智彦(フリーライター)

関係者が撮影した事件直後の理髪店内の様子。倒れている男を警察官らが取り囲む

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池田組の本部事務所。異様な雰囲気に包まれている

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