(撮影:国府田利光)

自らも自由律俳句を創作するピース又吉氏(撮影/国府田利光)

「笑い」のち「しみじみ」

 山頭火と放哉の句には、思わずくすりと笑ってしまうような作品も少なくない。

 だが、それらの句も、味わえば味わうほどに“独り”の身にしみじみと感傷の色が移ってくるように感じられる。まるで、かつての山頭火と放哉との対話をしているような錯覚すら覚える。

 たとえば、漂泊の旅を続けた山頭火には、野宿や行脚途上の句も多い。となれば、自然と排泄にまつわるテーマも出てくる。

「日の落ちる方へ尿(いばり)してゐる」 山頭火

〈1931(昭和6)年2月3日のところに記す。山頭火には尿の句が数多くある。[中略]いかにも一人暮らしの、ぬかるみをうろついている人間の立ち小便の姿が出ているではないか。落日に向かって小便をしている。自分も小便も夕陽を浴びて、空も町も染まって、なんとも物哀しいのだ〉(金子氏)

 一方の放哉は、晩年には寺男や堂守として“無言独居”の暮らしを送った。そんな自分の周囲から一瞬の風景を切り取った句が多い。それゆえか、何度も繰り返し読むことで、新たな心境が降りてくることがある。

「釘箱(くぎばこ)の釘がみんな曲がつて居る」 放哉

〈修繕しなければならないなにかがあって、釘箱を開けてみると全部の釘が曲がっている。一本や二本ではない。すべての釘が曲がっているのだ。本人は釘を眺めて呆然と立ち尽くすしかない。こんな場面を想像するとつい笑ってしまう。[中略]放哉の人生とこの句を重ねるとまた見方が変わってくる。ほかに「打ちそこねた釘が首を曲げた」という句もある。釘は最初から曲がっていたわけではない〉(又吉氏)

 五・七・五の字数や季語を詠み込む決まりがあり、句会や句誌で発表することの多い有季定型の俳句とは異なり、自分の主題とリズムを詠むことができる自由律俳句。その名句が心に沁みるのは、やはり今が“独りの時代”だからかもしれない。

※金子兜太・又吉直樹『孤独の俳句 「山頭火と放哉」名句110選』(小学館)より一部抜粋・再構成

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