大人びた内容もさることながら、絵の上手さに驚かされる
「生意気なこと書いているわねぇ」
一月十八日(火)晴
学校のホーム・ルームの時間に、映画へお菓子を持っていってよいか悪いか、とてももめたの。私はどっちだって?もちろん「悪い方」よ。だって映画館の中で、中学生ともあろう私達がむしゃむしゃ物を食べているなんて、みっともないわ。それなのに反対側の人は「今は成長の時期だからおなかがへる」だって……あきれたわ。だから、私書記だけど、どんどん文句を言ったのよ。そしたら「書記はだまっていろ」ですって。それに手を上げても、絶対さしてくれないのよ。議長自身が「反対」の方なんだもの。結局「もっていってよい」に決まってしまったの。くやしいったらありゃしない。
二月九日(水)晴
今日は少女クラブの発売日。早く「リボンの騎士」が見たくて。私あれが一番好きだわ。とてもロマンスがあって、スリルがあって、ユーモアがあって大好きなの。クラスの皆「リボンの騎士」のファンなのよ。「見せてえ見せてえ」とそれは大変なの。むりもないわ。絵が手塚治虫先生なんだもの。今私達のあこがれのまん画家の先生なんですもの。
四月二十七日(水)雨
私ね、今学期から生花部へ入ったの。犬飼さんと。少しは女らしくしないとね。──生花は女らしく、そして将来ためになるわ。お嫁さんになるためもなるかな? ホホー。毎週一回火曜日午後三時からですって。月謝は月お花代も含めて一九〇円。あんがいやすいのね。学校だかららしいけど…とにかくしっかりやるつもりよ。
六月二十一日(火)
私この頃一番なやんでいるの。本当にこまっちゃうことなの。私父に似てわきに汗をかくのよ。それも少しの汗ならいいんだけど着ているものをとうしちゃうくらいひどいの。そのため、洋服やブラウスのわきが黄色くなっちゃって、あげくのはてに赤みをおびて血のような汗がでるの。だから、うっかり手をあげられなくてこまっちゃうわ。大人になったらどうしよう。いやだわ。なおるくふうないかしら。(いずれも原文ママ)
日記の内容は中学生らしく家のことと学校のことが主だが、筆力は明らかに中学生のそれではない。中には「今の母が生母ではない」ことや、「アレの日はつらい」といったものもある。読み物として成立しているのは、誰かに見せることを前提に書いたのだろうか。
「そうじゃないんです。自分に言い聞かせてる感じ。私も久しぶりに読んだんだけど、しっかし、生意気なこと書いてるわねえ。眠る前に言いたいことを書いて、それですっきりして眠りにつく。日記は中学のこの期間だけ。高校に入っても書いたけど、学校と部活が忙しくて、それどころじゃなくなったから。でも、この頃の私には日記が必要だったのよね。日記に助けてもらった部分はあったもの」(田中敬子)
中学2年生になった1954年の夏休み、根岸中学校の代表の一人として、敬子は「青少年赤十字」の世界大会に参加することになった。そこで思わぬ邂逅があった。
(文中敬称略。以下次回、毎週金曜日配信予定)